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「それで――具体的に、アナタは何をしたのですか?」

 笑顔で聞くリヒトさんだが、目の奥が笑ってない……。

「何かした、と言うより――」

 まだ、未遂なんですがね。

「…………」

「まぁ、深く追求しないでおきましょうか。先程、日向さんの中にいた彼が言っていた言葉ですが――アナタ自身、変化は感じますか?」

「変化というか――こう、頭の中に景色が見えるんです。それでさっきも、自分では知らないことを話していました」

 今ではあまり覚えていないが、あの時の感情は覚えてる。
 悔しくて、悲しくて。
 絶望的な感覚が、心を支配していた。

「彼の話しが本当だとするなら、アナタは前世の日向さんを知っていることになります。それがどう作用するかは分かりませんが、一先ず、今日は近付かないよう」

 いいですね? と、念を押された。
 言われなくてもわかってる。
 今の状態で会いに行くほど、俺も危険なことはしない。
 また何処かの景色が見えた時、美咲に詰め寄らないとも限らないからな。



「――お邪魔してもいいかしら?」



 戸の向こうから、女性の声がする。
 リヒトさんが返事をすると、入って来たのは、紅色の髪をした知らない女性だった。

「初めまして。私はシエロ。あなたが――キョーヤくんね?」

 やわらかな物腰で、その人は言う。
 近くに来ると、まじまじオレを見つめてきた。

「――――」

「あのう……一体何を?」

「あ、ごめんなさいね。力が使えるかと思って、ちょっと、あなたの先を見ていたの」

「先って――俺の未来、ですか?」

「えぇ。でも、まだ調子が出ないみたい」

「当然です。アナタは長い間、あの箱の中にいたのですから――どうか、無理をしないで下さい」

「大丈夫。そこはレンにも釘をさされてますから。――少し、キョーヤくんと二人でお話をしたいのだけど、いいかしら?」

「はい、オレは構いません」

「ありがとう。リヒトは、別の部屋に行ってて」

 頷くと、リヒトさんは部屋を出て行った。



「――――さてと」



 これからが本題だと言わんばかりに、シエロさんは真剣な雰囲気を放つ。

「キョーヤくん」

 静かに、名前が呼ばれる。返事をすると、シエロさんは微笑み、



「あなた――美咲のことが好きなんでしょ?」



 予想もしなかった話題が飛び出した。

「あ、あのう――話したかったことって」

「もちろん、恋のお話よ」

 当然でしょ? と言われ、オレは唖然としてしまった。

「正直に答えて。あなたは――美咲が好き? それとも、ただ赤の命華だということでそばにいるの?」

 瞳を輝かせるシエロさんに、渋々ながらも、答えることにした。

「――初めは。後者、でした」

「そう。なら、今は前者の方なのね?」

 頷けば、シエロさんは嬉しそうに笑った。――だが。



「悪いけど――その思いは告げないで」



 今までのやわらかな雰囲気は消え、緊張した空気が辺りに漂う。