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 叫び声を聞き、蓮華と上条は声の元へ走った。
 そこで見たのは、驚きの表情を浮かべながら部屋を見る叶夜。ゆっくりと近付き、二人も部屋を見る。

「そこのガキ、お前が余計なことをするから、姫の存在が危うくなっただろうが」

 部屋にいたのは美咲。
 しかし、彼等の目の前にいる彼女は、今までの彼女とはあきらかに違う。声や口調は男そのもので、腕を組み、こちらを睨んでいた。



「お前――何者だ」



 静かに、蓮華が問う。
 それに美咲は、ため息をついてから答えた。

「姫の存在を現世に繋いでいる者、とでも言っておこう。お前――華鬼の長だろう? 隣にいるのは、カルムの中でも古き存在」

 自分たちのことを言い当てた美咲に、蓮華は関心の声をもらす。

「やけに詳しいな?」

「ま、それなりにな。そんなことより――そこのお前」

 ぎろっ、と叶夜に視線が向けられる。

「お前も前世で繋がりがあるのはわかるが、余計な刺激を与えるな!今の姫には魂が無いんだ。オレまで消えたら、この体を奪おうと別のモノが入るだろうが」

 その言葉を聞き、蓮華と上条は愕然とした。それと同時に、魂が無い美咲がここに居るのは、この者が原因なのだと納得した。



「――悪いが、オレが出ることもよくない」



 片手を頭に当て、美咲がよろめく。

「とにかく――お前は、余計な刺激を与えないよう心掛けろ」

 座りこみ、うな垂れる美咲。
 蓮華がそばに駆け寄り、まだ話しがあると言えば、今は出来ないと告げられた。

「オレがこれ以上出ているのも危うい。――聞きたいことがあれば、今夜にでも、夢に入ってやる」

「ならば、必ず来いよ」

「あぁ……わかってる」

 途端、美咲は倒れこんだ。
 体に触れれば、とても熱くなっている。

「リヒト、お前は叶夜を」

 そう告げると、蓮華は美咲を抱え、別の部屋に移動した。

 ◇◆◇◆◇



 体が――軽い。



 ゆらゆらと漂う感覚。
 水の中にいるようなその感覚に、またここに来たのかと思った。



『全てが終わるまで――オレが繋いでやる』



 何処からか、声がする。
 次第にはっきりと、耳元で聞こえはじめた。



『だから安心して、お前はお前のやりたいことをしろ』



 やりたいこと――?



 言われても、そんなことは思い付かない。あるのは、模倣された日向美咲にある強い思い。みんなを護ると、それしか知らない。



『余計なことは考えるな。――そろそろ、目覚めてやれ』



 すぅっと、体が浮上する。
 徐々に光が強くなり、目の前が、真っ白に染まった。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…



「美咲――私が分かるか?」



 景色に、色が付いた。
 そこで見えたは、心配そうな表情を浮かべる蓮華さんだった。

「?――――彼、は」

「彼? 誰のことを言っている?」

 あぁ、そっか。
 ここに、彼は存在しないんだった。

「気にしないで下さい。あのう――自分は、何故寝かされているんですか?」

「熱が出て倒れたのだ。今日は、ここに泊っていけ」

 額に、蓮華さんの手が置かれる。
 ひんやりとして――とても心地いい。

「ゆっくり、体を休めろ」

 目を閉じると、意識はすぐに、眠りへと落ちて行った。