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 目の前にあるのは、気を失った美咲の姿。
 首や肩には噛まれた跡。
 服は破け、下着が露になった状態だった。



 俺が……やった?



 ここに至るまでの記憶が無い。契約を交わしたのは覚えてるが、その先は――。

「?――――血が」

 口の中が、血の味がする。
 確実に……吸ったのは俺だ。

「みさ、き……?」

 小刻みに震える手で、首に触れる。
 ――! よかっ、た。
 脈はある。生きていることを確認し、安心した。
 今までなら、血が欲しいという欲求だけだったのに……。美咲そのもを、欲してしまったというのか?



「――ようこそこちら側へ~」



 棒読みの言葉。聞き覚えのある声に、俺は声がした方を向いた。

「ついに襲っちゃった?」

 窓から入ると、ミヤビは近くに来てかがんだ。

「ん? 破いてんの上着だけ? アンタ、着たままでするのがタイプとか?」

 くくっ、と嫌な笑いが聞こえる。
 ……相変わらず、気にくわない性格してやがる。

「貞操は……奪ってない」

 しっかりとした記憶は無いが、それはしてないはずだと、願望にも似た思いを口にする。

「へぇ~。我慢したんだ。ま、アンタの服が乱れてないし、そーだろうなとは思った」

 言われて、自分の服に目をやる。確かに乱れは無く、ベルトも外していなかった。

「よかったね。アンタ、完全発症にしてはラッキーだよ」

「っ!――――完全、発症」

「そっ。アンタもオレと同類ってこと。悔しい? 今まで散々殺してきた種族と同じになるのは?」

「――――別に」

 悔しいとかはない。
 ただ、彼女のそばにまともな自分でいられないのではというのが怖い。殺すだけの日々だった自分に戻りはしないかと、嫌な考えが頭を過ってしまう。

「とりあえず、正気があるうちに蓮華さんとこに行け。リヒトさんに知らせた方がいいからな」

 後はオレがやっとくと、ミヤビは言う。

「……お前だって、発作があるだろうが」

「しばらくは問題ナシ。ってか、アンタは美咲ちゃんの治療できないだろう?」

「出来ないが、それはお前だって」

「オレにはできるんだよ。エメから教わったし、さっき薬ももらった。アンタも知ってるだろう?」

 ミヤビが……エメさんと知り合い?
 疑問に思うオレをよそに、ミヤビはオレを立たせると、外へ追いやっていく。

「ほら、これを割ればあっちに繋がるってさ」

 小瓶を渡され、背中を強く押される。
 発症したことを考えれば、早くあちらにいるリヒトさんを頼るのは当然のこと。ミヤビの言うことは最もだが――。

「お前、美咲さんに何もしないだろうな?」

 発症からくる欲情がなくても、男として普通に、この状態の彼女を見て理性を失わないかと心配になった。

「絶対……手出しするなよ?」

「しつっこい! さっさと行く!!」

「っん、の!?」

 豪快に背中を蹴られ、部屋から落とされた。
 急いで戻れば、窓はもう閉められており、ざっと勢いよく、カーテンを閉められた。

「あいつ~……。本当に、大丈夫なんだろうな?」

 後ろ髪を引かれる思いだが、まずはやるべきことをしなければならない。再び発症する前に、蓮華さんの元へ向かった。