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「契約の確認をしよう」

 叶夜は以前、日向美咲と契約を交わしていた。美咲の危機や居場所を素早く察知できるよう、護る為に行ったものらしい。

「なんらかの影響を受けているともわからない。これから家の前に出るから、オレの真名――ノヴァと心で思い、呼び寄せてくれ」

 そして、真名である名を呼べば、命令をすることができるようだ。
 頷くと、叶夜は外へ出て行った。
 しばらくすると目を閉じ、静かに心で思う。



〝ノヴァ――ここに来て〟



 本当に、届いているのだろうか――?
 自分にもなにかわかる反応があればいいのだけど、今のところ、それらしいものは感じない。



「――消えてるようだ」



 戻って来た叶夜が、ため息をもらしながら言った。

「何も感じなかっただろう?」

「はい。これをすると、自分にどんな変化が?」

「左手に温かみと、刻印が浮かびあがる」

 温かくもなければ、文字が浮かびあがってもいない。
 契約とやらは、跡形も無く消えてしまっているらしい。

「なら、再度契約が必要ですね」

 やり方を聞けば、自分は返事をする以外、何もしなくていいようだ。床に座ったまま、これから叶夜が行うことに従った。



「一つ目の誓い、二つ目の誓い、そして、三つ目の誓いを、日向美咲に――我が真名を彼の者に晒(さら)す」



 左手を握り、見つめながらに発せられる言葉。
 その眼差しは真剣そのもので、厳格な雰囲気が漂っている。



「我が真名はノヴァ。今この時より、我は彼の者に三つ全ての誓いを行う。――許しを、いただけますか?」



「――――はい」



 小さく、肯定の言葉を口にする。

「では、誓いの刻印を」

 すると叶夜は、指を口に当て、血を滲ませる。その指を自分の手の甲当て、なにか文字のようなものを書いていく。そして書き終えるなり、そっと、唇を落とした。
 次第に、手の甲に書かれていた血文字が淡く光る。しばらく見ていれば、静かに、光と共に文字も消えてしまった。

「これで、契約はかん、りょ――?」

 左手が突然引かれ、叶夜が自分を抱きしめる。なぜこんなことをするのかと思えば、体から、徐々に力が抜けていく感覚がした。
 思考ははっきりしているのに……体だけ、重くなっていく。
 今、叶夜がこうしてくれるのが、とても楽に感じる。

「契約すると――体が、重くなるんですね」

 支えてもらえて助かると言えば、一瞬、ぴくりと叶夜の腕が反応を示した。

「――何故、黙っているんですか?」

 叶夜はなにも言わない。
 答えの代りなのか、隙間なくしっかりと、体を密着させていく。