「見てほしいものがあるのですが――」

 いいですか? と、聞かれた。
 頷くと、美咲は本棚から一冊の本を手にしてきた。
 指された部分を見れば、そこには俺とミヤビのことが書かれていた。

〝雅さんは、明るくてノリがいい人。

 叶夜くんは、真面目で優しい人〟
 真面目で――優しい。
 この時、そんなふうに思ってくれていたのか。
 これがどうしたのかと聞けば、美咲は次のページをめくり指した。

〝だけど――時々、辛そうな雰囲気がある〟

 そしてその後には、どうしたら笑ってくれるだろうとか。
 淋しい顔をさせないですむのかというような言葉が綴られていた。

「文章を見ただけではわかりませんでしたが、今の叶夜の様子と、話していて、少し理解できました。叶夜は――とても強い、贖罪の念にかられているんだと」

 真っすぐ、美咲が俺を見つめる。まるで心を見透かすような瞳に、身動きが取れなくなってしまう。

「最初は、日向美咲に対してだと思っていましたが――他のことで、なにか大きなことがあったのですね」

「……何故、そう思う?」

「叶夜が自分に触れた時、見えたんです。自分に懺悔をしている時に、叶夜の思考が」

 理由はわかりませんけど、と付け足し、美咲は日記をしまった。
 触れた時に見えたって……。
 俺の記憶全てが見える、ってことなのか?
 命華特有の力なのかと考えていると、

「叶夜は今――悲しいですか?」

 不意に、そんな言葉が耳に入った。

「まぁ……少しは」

 視線を外し、そう答えた。
 それは、正直な感想。こうして目の前にいてくれるのは嬉しいが、手放しで喜べるわけじゃない。忘れられてしまったという事実は、やはり悲しいものだから。



「自分が――なんとかする」



 静かに告げられたのは、思わぬ言葉。
 再び視線を向ければ、真っすぐな瞳が、オレを見据えていた。

「日向美咲は、叶夜に心から笑ってほしかった。自分にあるのはみんなを護ること。なら、辛い思いから叶夜を護るのも大事なことになる。――だから」

 表情は乏しいものの、言葉はとても温かく。
 いくら記憶が無いといっても、やはり、彼女という根本は変わっていないのだと実感した。

「今の自分が――叶夜を護る」

 美咲が……俺を護る。
 嬉しいが、そういうのは男の台詞だ。
 お前が俺を護るというなら、俺は今のお前に、再び誓いをしよう。

「俺も必ず――お前を護る」

 記憶があろうとなかろうと、この思いは変わらない。
 もう、後悔などしてたまるか。