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「――そう。貴方の主は、ある一定の時期になると殺されるのね」

「あぁ。それも生を全うすることなくだ。まだ、己自身で死を選べるなら幸せだと言われたが……オレには理解し難い。どちらにしろ、死以外の選択肢が無いのだからな」

「そんなふうになっても、彼女は受け入れるのね。私なら恨みや憎しみで全部壊してやりたくなるけど――そーいった感情も乏しい、ってこと?」

 頷く青年に、やっぱりかと少女はため息をもらした。

「にしても……随分重い罰よね」

「罰、だと?」

「だってそーでしょ? これはもう【呪い】とは違うわ。
 あくまで推測だけど、貴方程の主なら、これだけの時間があれば解決するだけの力はあるはずよ。それがそのままになっているなら、彼女はそれを受け入れたってことになる。その時点で、それはもう【呪い】じゃない。【罰】になるのよ。
 ――まるで懺悔ね。これほどまで長い懺悔、聞いたことないわ。永遠に抜けられない、出口の無いメビウスの輪みたいなものよね。殺されること、ただ繰り返してるんだもの。死は悪戯に操作するものじゃないのに……神様だってやらないことをするんだから、相当な恨みよね」

「それも理不尽な理由なのだから性質(たち)が悪い――――?」

 青年は、周りをきょろきょろと見渡す。
 どうしたのかと聞けば、呼んでいると、青年は呟いた。

「主が――呼んでいる」

 途端、少女の目の前から、青年は姿を消した。

「契約はほとんど私にあるのに……。それだけ結びつきが強いってことか。一方的な忠誠心かは知らないけど、少なくとも、そーいうのって思われてるってことになるんだからね?」

 夜空に浮かぶ月を眺め、一人呟く。

「さてと――こっちも仕事しますか」

 地面を蹴り、屋根へと跳ねる。
 黒いロングコートをなびかせながら、少女は夜の闇に消えていった。

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 黒い球体に近付くと、美咲は小さく、言葉を呟いた。
 瞳が輝き、もう一度、静かに言葉を紡ぎ出す。



「従者は――我の元へ」



 空間が歪む。しばらくすると、美咲の隣には、一人の青年が現れていた。
 黒く長い髪を後ろで一つ結びにした、左右瞳の色が違うその者は、美咲を見るなり、驚きの表情を見せた。

「早速ですが――あちらとことらを、分断して」

 彼は、これから起こることを瞬時に理解した。
 主はまた……死ぬつもりなのだ。
 ようやく会えたにも関わらず、こうしてすぐに別れがきてしまうことを、彼は心で悔いた。だが自分には、彼女の願いを……手助けすることしか出来ない。せめて、安息な死を迎えられるようにと、青年は余計な考えを排除する。

「――貴方の、望むままに」

 頭を下げる青年。
 そして体勢を低く構えると、四つん這いになり、体から殺気を放つ。



「――この場から逃げて!」



 美咲が叫ぶと同時。青年は勢いよく、周りの壁を破壊する。そして言われたとおり、美咲と近くにいた男を、二人きりにした。奥にいた者たちが侵入出来ないよう、念入りに結界を施して。
 美咲のそばに戻っても、青年の殺気は治まらない。それは、目の前にいる男こそが、美咲を破滅に導くきっかけになるからだ。

「手駒はもうないわ。――これで本当に、私は終わり」

 忍ばせていた短剣を、自分の首へ向ける。
 それを見たディオスは、怪訝そうに顔を歪めた。

「そうまでして、我から逃れたいのか」

「そのような感情は無いわ」

「ようやく手に入った体だぞ? 我の言うとおりにすれば、思うままなのだぞ?!」

「そのようなものに興味はないわ」

「もう少しで……完璧なお前が出来上がるというのに」

 ぎぎっ、と歯を食いしばる。
 苛立ちを隠しきれないディオスは、近くにあった瓦礫を蹴飛ばす。