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「では、これからは私の指示に従うと。そういうことで構いませんね?」

「姉さんに言われたからね。オレはそれに従うだけ。――でも、姉さんがここに来たなんて、意外だった。自我もそんなにないかと思ってたからさ」

「今の状態であれば、問題はありません。一応、薬も持たせてありますから、救う手立てはあるかと」

 その言葉に、雅の口元は綻んだ。
 まだ、彼女の為にやれる。救うことができるかもしれない。希望が断たれていないこの状況を、彼は嬉しく感じていた。

「事は、本格的に動き出しています。貴方もスウェーテの血を引くなら、それなりのことをしてもらいませんと」

「って言われても……」

 正直、オレにはこの瞳ぐらいしかないですよ? と返事が返って来た。
 それ以外の力はないと言う雅に、上条は首を傾げた。

「アナタ……長ではないのですか? 雑華の中でも、スウェーテには、独特の力があるはずですが――いや。そうか。だから彼女には」

 一人納得する上条。しばらくして考えがまとまると、その考えを確かめるように問う。

「アナタは、何も受け継いではいないのですね?」

 雅は頷く。
 となれば、受け継いだのは同じ血を持つ片割れ。

「アナタは瞳の力しかなく、その他の身体能力も、特に抜きん出るものはないですね?」

 またしても頷く。
 それならば、彼女に現れた異変にも納得がいくと、上条の考えは、核心に迫っていた。

「アナタは、自分の一族の話を知っていますか?」

「話って言っても……王華と違って、人なんかと子ども作ったり、ってぐらい? 別に種族とかにこだわりはないようだったけど」

 やはり、彼は何も知らされていない。
 上条の考えは、この瞬間、核心に変わった。

「リヒトさん……アンタ、何を知ってるの?」

 黙ったままの上条。
 しばらく思案した後、彼は雅に話をすることを決めた。

「これから話すことを、心して聞きなさい」

「それ、長くなるの?」

「少しは。ですが、エメさんのやろうとしていることを知る為にも、貴方の為にも――これは、聞かなければならない話です」

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「これで、一応は安心ね。ちゃんと動いてくれたみたいよ」

 少女の言葉に、青年は安堵の表情を見せる。

「それと、こっちの仕事も、ちょっと厄介になりそうよ。境が曖昧になって困るわぁ~。と言うわけで――仕事、頑張ってちょうだいね?」

「わかっている。貴女には迷惑をかけているんだ。それ相応の働きはする」

「さっすがは優秀な使い魔! 貴方の主はいいわねぇ~こんなに思われてるんだから。ここまでくると、主従以外の感情なんて芽生えちゃったして?」

「ありえない」

 茶化す少女に、間髪入れず否定的な言葉が告げられる。

「主には、そのような感情は無い」

「そんなの、本人に聞いてみないとわからないでしょ? って言うより、言わなくてもわかるわ。貴方、とっても大事にされてたでしょ? それが何よりの証拠よ」

「違う! 主は本当に……」

 ぎっ、と唇を噛みしめる。
 いつも感情を表さない彼が、今日はやけに思いを表している。

「主は……解らないんだ。あの方にあるのは平等な精神。誰か一人を【特別】だとは理解出来ない」

「そこまで特別でなくても。ほら、親友みたいな感じとか。そーいったのなら、別に主従関係でも抵抗とかなっ」

「だから無いんだ! 主は……それを、理解してはいけない」

「? もっとわかるように言いなさいよ。話してくれたら、私だって少しは手を貸すわよ? あ、でもこっちの仕事が優先の時もあるから、そこはムリしない程度にってことで」

「…………本当、貴方はお人よしだ」

「お人好しで結構。さぁさぁ、白状しちゃいなさい!」

「…………全く」

 しょうがない人だと思いながら、ため息をつく。
 少女に急かされ、青年は静かに語り始めた。

「主は、一人の者を【特別】としてはいけない。それが――彼女に与えられた、永劫続く呪いだ」