◇◆◇◆◇

 見えたのは――桜色をした空。
 ふわふわと浮かびながら、私はどこかへ進んでいた。しばらくすると、たくさんの花が咲き乱れる場所に出た。私はそこで下り、花畑を歩いて行く。
 ――遠くに、誰かが立っているのが見えた。
 輝く紅色をした、長い髪の女性。それは以前に見た、あの女性だった。
 すると女性は、こちらを振り返る。

「貴方に――会いたかったわ」

 優しい眼差しを向ける女性。どうやらこの人も、お姉さんのように、私の姿が見えているらしい。

「! まさか……覚醒しているなんて」

 女性は、私の目の前にやって来る。
 手を伸ばしたかと思うと、その手は私の頬にそっと触れ、なんとも悲しそうな表情をしていた。



「貴方は……誰、なんですか?」



「私は――赤の命華よ」



 そう言って、女性は私を抱きしめた。
 なんだか……不思議な感覚。
 抱かれるのが心地いいのか。とても……温かい気持ちになっていく。

「私には、少しだけ先の世界を見れる力があるの。でも……貴方はその逆。貴方は過去を見れる」

「? だったらどうして」

 見れるだけなら、こうやって触れることも、話をすることもできないのではと、疑問が浮かんだ。

「それはね、仲間のおかげ。そして……貴方が、特別な〝命華〟だから」

 真剣な瞳で見つめられ、私は目をそらすことができなかった。とても綺麗な顔立ちに、目を奪われてしまっていた。

「貴方は……初めて、赤の命華から産まれた子供なの。赤の命華に子供が産まれたとわかれば、その子供は殺されるか、利用されてしまう。だから私は……全てを、背負うことに決めたの」

「背負うって……」

 もしかしたら、呪いのことなんじゃないかと頭を過った。

「私は、必ず未来を変えてみせる。貴方や、あの人に恨まれようともね」

 女性の瞳には、決意が秘められていた。覚悟を決めたその姿は、とても凛々しく、神々しくさえあった。

「あ、あのう。貴方の、子供って……」

 私なの? って、聞きたいのに。
 なのに、いざそう思うと、なかなか言葉にすることができない。
 怖いとか、間違いだったらとか。余計な考えが、私に戸惑いを与えた。

「ふふっ。貴方は、あの人と同じ瞳をしているのね」

 先程までの真剣な表情とは違い、女性は私に、とても優しく微笑む。

「でも――髪色と可愛さは、私と同じね」

 楽しげに、女性は頭を撫でた。



「――――どうして、泣くの?」



 いつの間にか、私は泣き出していた。自分の親だと核心したら、我慢ができなくなってしまった。

「きっと……私に責任があるのね」

「ち、違っ……」

「色々、今は苦しいと思う。でもね、貴方は一人じゃないから。――自分を、信じなさい」

 そう言って、女性は私の額に、唇を落とす。
 途端、体に不思議な感覚が走った。心臓が速さを増していくものの、薬を入れられた時とは違う――心地いい感覚がする。