*****



「本当――いつまで保てるやら」



 とても大きなため息をついて数秒後。エメはビルの上を駆けた。
 目指すは自分の世界。そこで彼女は、ある人物を探していた。
 けれど、帰るやいなや目にしたのは、淀みきった空気と、影が蠢く自分の世界だった。

「まったく。こんな有様になるなんて……っ!?」

 悔しがるエメの体に、異変が起きた。黒く変色した左手が、肘までその色を進行させていた。
 スカートの裾を破り、黒くなった腕に巻きつけていると――気配を感じた。瞳を輝かせ、その場所へと急ぎ駆ける。



「――――見つけたっ!」



 どんっ、と勢いよく目的の場所にいた人物にエメは抱き付いた。いや、抱き付くというよりも、体当たりと言う方が適切かもしれない。それだけ、相手に与えた衝撃は大きいのだから。
 小さな呻き声を上げたものの、抱き付かれた人物はエメを責めることなく、自らもエメに抱き付く。

「変ことしてない? あいつらに、何かされてない?」

 ん? と、エメが優しく問いかける相手は、自分と年が近い少年――雅だった。

「なんで……ここ、に?」

「私がいなきゃ、エルはムリするでしょ? 貴方をそんなふうにしたのは……私が原因だもの」

 抱き留めた腕を緩め、しっかりと、雅の顔を見つめる。そして両手を、雅の頬へもっていく。

「貴方が今まで何をしてきたのか、私は知ってる。でも、それを責めるつもりはないわ。そんなことをやらせたのも、私が原因なんだから」

「姉さんは悪くない! オレが弱いから……だから姉さんはっ!!」

 涙を流し、感情をあらわにする雅。それを嬉しそうに、エメは優しく見つめていた。

「エル……これから話すことをよく聞いて。私は今から、みんなを束ねる。貴方はリヒトさんと一緒に、美咲ちゃんを助けて」

「わかってる。命華の血がなきゃ、姉さんをたすっ」

「こらっ! そんなこと考えない!!」

 バチンッ! と、乾いた音がした。
 かなりの強さで叩かれたのだろう。雅の頬は、赤くなっていた。

「初めはそうだったかもしれないけど……エル、美咲ちゃんといて楽しくなった? わくわくしなかった?美咲ちゃんの記憶にある貴方は――とっても素敵な笑顔でいたと思うんだけどな」

「っ……そんなんじゃ、ない。オレが楽しいと思うのは、姉さんといる時だけなんだ!」

「まったく……嘘はつかないの」

 ね? と、エメは再び抱きしめる。

「認めないならそれでもいいけどね。とにかく! 美咲ちゃんを泣かせちゃダメよ? ほら、早くリヒトさんと合流しなさい」

「っ!? 姉さん――っ!」

「早く動きなさ~い。また後で会いましょうね!」

 あっと言う間に、エメは姿を消した。
 この数分のことは、現実に起きたこと。けれど雅は、まるで夢でも見ているような心地だった。
 彼にとっては何十年。数百年と待った再開。それがいともあっさり済んでしまったのだから、当然かもしれない。



「動くのは――姉さんの為だ」



 言い聞かせると、雅も空を駆けた。