苛ついたような低い声が頭の上から聞こえる。

「え? 誰?」
なんで人がいるの?

「私の部屋で何して——」
「俺の部屋ですけど?」
「え? そんなはずないです」

オートロックのエントランスを抜けて上がって来た、メゾンNNの5階。絶対に私の部屋。

私の部屋から出てきた男性は、大きなため息をついた。

「あんたの部屋、隣じゃない?」

そのひと言で、サーっと血の気が引いていく。
酩酊気味でぼーっとしていた脳みそも、一気に正気に戻っていく。

「す! すみませんでした!」

夜中に酔っ払ってひと様の家のドアをしつこく開けようとする……警察を呼ばれてもおかしくない事態だ。
「もういいよ。酔っ払ってんでしょ? 早く帰って寝なよ」
「あ、ありがとうございます」

「おやすみ」
そう言って、彼はドアを閉めた。


それがお隣さん、真下仁(ましたじん)くんとの、申し訳なさすぎる出会いだった。