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「ねぇ、ハルカ。なにか用事でもあるの?」

 お菓子の家で、二人まったりと寛いでいる最中、一人がけのソファーに腰かけて、懐中時計を見ているハルカに、私は声をかけた。

 金色の光沢が美しい懐中時計。
 それを、朝から眺めては、ハルカはとても嬉しそうにしていた。

「いや、用事なんてないよ」
「じゃぁ、なんで朝から時計ばっか見てるの?」
「あぁ、なんだか嬉しくて」

 そう言ったハルカは、また愛おしそうに懐中時計を見つめる。

「この時計が止まったら、欲しかったものが手に入るんだ」

 そういって、視線をあげたハルカは、まっすぐに私を見つめた。

「欲しかったものって?」
「内緒」
「えぇ!?」

 だけど、その後、懐中時計を胸ポケットにしまったハルカは、"それ"を教えてはくれなくて、私は頬をふくらませた。

(時計が止まったらって……願かけでもしてるのかな?)

 切れたら願いが叶うとか、そんな感じ?
 そんなことを考えていると

「アンナ。お昼ごはん食べたら、また出かけようか。今日はどこにいきたい?」

 ハルカが、そう問いかけてきて、私は表情を明るくする。

「じゃぁ、今日は”虹色の川”を渡ってみたい!」

 キラキラと輝く虹色の川。
 あの絵本も主人公も、男の子と動物たちと一緒に渡って、とても楽しそうにしていたのを覚えてる。

「あぁ、ごめん。あの川は、まだ渡れないんだ」
「え?」

 だけど、そのあと予想外の言葉が返ってきて私は目を丸くした。

「え!? ダメなの?」

「うん。時間が決まってるんだ。6時44分になってからじゃないと渡れないよ」

 6時44分??
 なんだろう。その中途半端な時間?

 時間が決まっているなら、もっと切りのいい時間にすればいいのに……と、私が首を傾げると、ハルカは

「アンナ、川を渡るのは、また今度にして、今日は見に行くだけにしよう!」

 そう言ったハルカの言葉をしぶしぶ飲みこむと、私たちは、お昼を食べた後、虹色の川まで出かけることになった。