「じゃあ本番いきまーす! 用意!」
「パンッ」っと撮影開始の合図で監督の手がたたかれた瞬間、拓斗がカメラに映らない位置でわたしの手をギュッと握った。
「えっちょっと」
「こうしてたら緊張しないだろ?」
拓斗はイタズラっぽくニカッと笑って、そのまま演技を続けた。
「カーット! いいね! 自然ないい表情が撮れたよ」
なんとそのままOKが出てしまった。
「き、急にびっくりするじゃない」
「でもカメラ意識しなくて済んだだろ?」
また拓斗が笑顔を見せる。
カメラは意識しなくても、ちがう緊張が走ったんですけど……。
抱きしめられて以来、どうも拓斗を意識しすぎてる気がする。
教室のセットを出て「ふぅ……」って、気持ちを落ち着かせようとため息をついたときだった。
「ねえ、あの照明、なんかグラついてない?」
スタッフの人たちがなんだかザワつくのが聞こえた。
「あ! 危ない!」
「果音!」