「わかったかな」
「は、はい……」
レオさんはいつも通りの穏やかな口調に戻ったけど、それがかえって静かな怒りって感じで、この人は怒らせない方が良さそうだってその場にいた全員が思ったんじゃないかな。
「君たち」
話しかけられて、ギクリとしてしまった。
「ああ、ごめんごめん。怖がらせてしまったかな」
口元だけでも穏やかだってわかるレオさんの顔に、申し訳なくなって首を横に振る。
「大丈夫? ケガはない?」
「は、はい! ありがとうございました」
莉子と一緒に深々と頭を下げた。
顔を上げたところで、レオさんがわたしをジッと見つめていることに気づいた。
「あの……?」
「君、どこかで会ったことある? 僕と何かの作品で共演したかな?」
またしても首をぶんぶん横に振る。
「ボ、ボク、俳優じゃないので、ドラマも映画も出たことないです」
「そうか、僕のカン違いかな。おかしなことを言ってごめんね」
不思議そうな顔をしたまま、レオさんがスタジオに戻って行ったので、わたしと莉子もお弁当箱を持って、今度は目立たないように楽屋に戻ることにした。
「ごめんね、莉子。危ない目にあわせちゃって」
「ううん! 気にしないで。果音がかばってくれてうれしかったよ」
莉子が笑ってくれて、なんだかすごく申し訳ない気持ちになった。
だってわたし、お昼のときはきっとあの子たちと同じように莉子に嫉妬してたから。
また「ごめんね」って言って、莉子をぎゅっと抱きしめた。