「あのお弁当の、ひとつだけ足りないメニューを作ってみたんだけど、響ちゃん食べない?」
そう言って、レオさんがキッチンから持って来たのはニンジン料理だった。
「これ、グラッセ?」
レオさんがうなずく。
グラッセっていうのは、ニンジンをお砂糖やバターで煮て炒めたシンプルな料理だ。
「こんなにシンプルなメニューだったなんて」
「怜音くんのグラッセっておいしいのよ。絶対再現できないの」
ママが口を尖らせながら言う。
「響ちゃん、これだけは全然上手にできるようにならなかったもんなあ」
「え? ってことは、あのお弁当ってレオさんがママに作り方を教えたってことですか?」
ママがまた、すねたみたいな顔になる。
「果音の料理の才能は父親ゆずりなの」
全然知らなかった。
「響ちゃん。こうして再会できたことだし、できれば僕は君とやり直したいと思っているんだけど。果音ちゃんとも過ごしてみたいし」
「そんなこと急に言われても。15年も会ってなかったんだから」
「相変わらず意地っぱりだなぁ。ならまた一から始めない?」
レオさんは苦笑いだ。
「……考えておく」
顔を赤くした意地っぱりなママが、またわたしの方を見る。
「それはそれとして、果音はちゃんと自力でパパに会えたんだから、これからは自分の好きなときに会いなさい」
「うん!」
「……ところで拓斗くんはどうしてここにいるの?」
ママがニヤッとして聞いてくる。
「果音の彼氏なの?」
「え、えっとぉ」