「あの頃、お腹に果音がいるってわかったの。だけど怜音くんは、大きな夢を持って海外に行く人だったから、足手まといになりたくなかったのよ」
「なんで足手まといなんて考えになるかなあ」
レオさんはがっかりしたようにため息をついた。
「当たり前でしょ? 慣れない土地で慣れない出産や子育てなんて、怜音くんが仕事に集中できないに決まってる」
だからママは一人でわたしを育ててきたんだ。
「勝手に決めつけないでほしかったな」
「だけど、現に怜音くんは俳優として大成功したでしょ?」
「君たちが一緒にいても、同じだったと思うけど」
ママとレオさんの話はなんだか平行線って感じだ。
「で、でも! とにかくママは今でもパパが好きでしょ?」
ママはわたしの方を見て、髪をなでた。
「あのね、果音。いくら親子でも、自分以外の人の気持ちを勝手に決めつけて、ひとに伝えたりしたらいけないの。果音だって、ママが果音の気持ちを勝手に伝えたら嫌でしょ?」
ママに言われて、胸がシクッと痛んだ。
「ごめんなさい、ママ」
ママはぎゅってわたしを抱きしめてくれた。
「だけど、ママはずっと果音にさみしい思いをさせてきてたのかな」
思わずママの顔を見上げて首を振る。