「で? それをどうするんだ? 迷惑なら、『投函先を間違っています』ってポストに張り紙でもしておくか?」
「……そうだな。考えておくよ」

 シャルルはおとなしくうなずき、「呼び止めて悪かった」と言って手紙をデスクの引き出しに入れ、何やら考え込む姿勢になった。

 オーレリアンは、「誤投函が止まるといいな」と声をかけてから執務室を出て……ふふ、と小さな笑みをこぼした。

 シャルルは、誤投函の手紙がいつの間にかポストに入っていることを不審に思っていたが……当然だ。
 あの手紙は、オーレリアンが投函しているのだから。

 シャルルとリリアーヌが互いに特別な感情を抱いていることを、オーレリアンは知っている。
 だがシャルルは恋愛下手の口下手で、リリアーヌに至っては自分の恋愛感情に気づいていない。放っておいたらこの二人は結ばれるどころか……最悪の結末を迎えてしまう。

 まずは、シャルルの方をどうにかしなければならない。おまえが年上の補佐官に対して抱いている感情は恋であるのだと、気づかせる必要がある。

 だからオーレリアンは代筆屋に依頼してリリアーヌへのラブレターを書かせ、それをシャルルのポストに入れた。
 シャルルが「いつの間に」と言っていたのも、当然だ。手紙は、執務室側から入れられているのだから。

 オーレリアンはシャルルの性格を熟知しているため、彼がこの手紙をリリアーヌに渡さないことを予想していた。そしてオーレリアンの読みどおり、シャルルは誤投函された手紙を一人で読んで隠し持っていた。

 手紙の内容には、気をつけている。シャルルが手紙を握り潰しても問題ないように、返事を催促したりしない。それでいてシャルルを焦らせるように、リリアーヌへの恋情を募らせる様を書いていく。

 そうして今朝投函した手紙には、「ブラン伯爵令息が、あなたに懸想しているという噂を聞きました」という言葉を盛り込んだ。
 これを読んだシャルルは、オーレリアンに手紙の相談をするはず……という読みも、当たった。

 オーレリアンがいつもどおりへらへらしているからか、シャルルも幾分落ち着いたようだ。
 だがうかうかしているとよその誰か、もしくはオーレリアンに先を取られると自覚しただろう。

(次は……リュパン元帥のパーティーへの参加、か)

 もうすぐ、リュパン元帥が自邸でパーティーを開く。かつての(・・・・)オーレリアンはリリアーヌにも協力してもらって三人でパーティーをサボったのだが、あれにシャルルとリリアーヌを参加させるべきだ。

 オーレリアンは、いずれリリアーヌをラチエ男爵家から引き離す予定だ。
 あの父親は、リリアーヌにとって毒にしかならない。もしオーレリアンの狙いどおりシャルルと彼女が結ばれても、あの男爵を調子に乗らせるだけだ。そして、「早く公爵令息の子を産め」とリリアーヌを脅すのだろう。

 とはいえリリアーヌはただでさえ男爵令嬢という身分で、もし男爵家を離れたなら平民になってしまう。平民でしかも年上の女が息子の妻となることを、デュノア公爵は許さないだろう。

 ならば、デュノア公爵を黙らせられるほどの後ろ盾をリリアーヌにつけるしかない。
 そうしてオーレリアンが狙いを定めたのが、リュパン元帥だった。

 おおらかで気さくなリュパン元帥は、困っている人を見捨てられない人物だ。そして自分の麾下にある騎士や兵士たちの恋愛や結婚も推奨しており、シャルルは彼のお気に入りの一人でもある。