あれからシャルルは騎士団を退き、父親の引退に伴ってデュノア公爵となった。
 彼が養子としたのが「あの」伯爵夫妻の子だということで一時物議を醸したが、しばらくすると「元部下の忘れ形見を引き取った」という美談の形で収まったようだ。

 それからまた、オーレリアンはシャルルと会わなくなった。
 会いたくないとさえ、思っていた。

 ……そうして、シャルルのもとに送り出した息子が成人してしばらく経った頃。
 シャルルの訃報が、伯爵領に届いた。

 弔問のために王都に行くと、既に立派な大人になった次男――若い頃のシャルルに、よく似ている――に迎えられた。死因は不明だが少なくとも事件性はないようで、元々体調が優れなかったので体に限度が来たのでは、と医師は判断したらしい。

 シャルルの墓前に花を供えてから伯爵領に戻ろうとしたオーレリアンを、息子が呼び止めた。

「シャルル父上の部屋にあったのですが、どうしても開かず。オーレリアン父上なら、開き方をご存じかと思いまして」

 二人の父親をごちゃ混ぜにしないように気をつけながら話す息子は、見覚えのある箱を手にしていた。

(これは……確かずっと昔に、シャルルとリリアーヌの三人で使っていたものだな)

 もう、二十年以上前のことになるのか。
 まだリリアーヌも現役で三人で馬鹿話もしていた頃、オーレリアンが城下町の露店商から買った箱をシャルルの執務室に持っていった。頑丈な金庫とのことで、せっかくだからこれに重要書類を入れて三人で管理しようということになったのだ。

 ダイヤル式で、最初に設定した十二桁の番号になるように回さないと蓋が開かない。
 よって、三人で番号を共有して使っていたのだが次第に開け閉めするのが面倒になり、執務室の隅で埃を被ることになったのだった。

 オーレリアンは箱を息子から受け取り、帰りの馬車の中でダイヤルを回した。
 三人で考えた番号は、覚えるまでもない。シャルル、オーレリアン、リリアーヌの誕生日を順に入れればいい。

 ダイヤルを回すと、鍵が外れた。さて、中には何が……と蓋を開くと、インクの臭いがした。

 箱の中には、いくつかの封筒が入っていた。どれにも送り主名も宛先も書かれていないが、中の手紙を見るとすぐに、シャルルの字だと分かった。

 ……それらは、シャルルからリリアーヌに宛てた手紙だった。
 車窓から差し込む夕日の中で、オーレリアンはシャルルの遺した字を読む。