聖王暦四十九年、春。

 オーレリアンは次男の誕生報告と同時に、リリアーヌの死を公表した。

 世の大半の人は伯爵夫人の死を聞いて弔意を述べに来たが、「しかし、どうせ『傷あり』だしな」と、陰で言う者もいた。

 王都にいるシャルルがどんな気持ちでこの話を聞いたのか、オーレリアンは知らない。彼とはずっと、顔を合わせていないからだ。












 リリアーヌの死から十年以上経ったある日、オーレリアンは次男をデュノア公爵家に連れて行った。
 デュノア公爵は白々しい顔で、「貴殿のご子息は、非常に優秀だと聞いている。うちの息子には子がいないので、公爵令息として引き取らせてもらえないか」と言ってきた。
 かつて告げられていた、公爵家と伯爵家の取り決めどおりだ。

 オーレリアンは、次男を連れてシャルルのもとに行った。まだ三十代半ばだというのに、久しぶりに会った元上司はかなり老けた顔をしていた。それでも元々持っている美貌が損なわれていないというのは、なんだか癪だった。
 オーレリアンの方はあれこれありすぎて、すっかりもとの精悍さも消え失せてしまったというのに。

 久しぶりにまみえた元上司と元部下は当たり障りのない話をして、オーレリアンは次男――否、妻が産んだシャルルの子を見せた。

 艶やかな栗色の髪は誰が見てもリリアーヌ譲りだったし、目の色もオーレリアンは緑なので、リリアーヌの色を濃く受け継いだ子だと言われている。

 だが……息子の青灰色の目は、よく見るとリリアーヌとは少し違う。その色はまさに、目の前にいる男と妻の色を混ぜたものだった。

 シャルルは息を呑み、そして初めて出会った息子をしかと抱きしめた。
 次男はこれから養父となるシャルルに抱きしめられて最初は驚いていたが、オーレリアンが妬むほどすんなりとシャルルに馴染み、彼のことを「父上」と呼ぶことにも抵抗を示さなかった。

 これでいい。

 最初から次男のことは、シャルルに託すと理解した上で接してきた。
 上の子たちと差をつけたつもりはないが、「これが、あるべき形なのだ」とオーレリアンは受け止めていたのだから。