「シャルル、敵襲だ!」

 オーレリアンが呼びかけると、リリアーヌの上半身を抱えていたシャルルはこちらを見て瞳を揺らし、だが彼女の体を地面に横たえて腰の剣を抜いた。

「……すまない、リリアーヌ!」

 リリアーヌは、何かをシャルルに言ったようだ。シャルルがうなずき、「すぐに戻ってくる!」と言って駆け出す。

 オーレリアンもまた剣を抜き――ほんの一瞬だけ、リリアーヌの方を見た。

 顔からとめどなく血を流すリリアーヌが、草地に横たわっている。
 オーレリアンの位置からだと傷が浅いのかどうかさえ分からないが、もう彼女の口元以外が真っ赤に染まって見えるほどの出血具合だ。

 ……本当は、今すぐに彼女のもとに駆けつけたい。
 シャルルに、「ここは俺がどうにかするから、おまえはリリアーヌを救護室に運べ」と言いたい。

 だが、できない。

「リリアーヌ、すぐに助けを向かわせる! 待っていてくれ!」

 それだけ言い、オーレリアンはリリアーヌに背を向けた。












 結果として、砦を襲撃した者たちを追い払うことができた。

 彼らは、共和国軍の密偵だった。明日の交渉を台無しにしようと夜間襲撃したのだろうが、シャルルたちがすぐに皆に指示を出したこともあり負傷者は最低限に抑えられ……一番の大怪我が顔を負傷したリリアーヌだったというのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。

 交渉を明日に控えながらも密偵を送り込んだということで、王国軍は共和国軍を徹底的に非難し、締め上げた。
 当然のことながら今回の交渉は始まる前から決裂で、共和国軍に脅しをかけた上でオーレリアンたちは王都に戻ったのだった。