(よし、依頼はできた、と……)

 オーレリアンは書庫を出て、シャルルの執務室に向かった。今の時間なら、ここにいるはず。

 副官特権で雑に執務室のドアを開けるが、部屋の主は奥にあるデスクの前に座ってしかつめらしい顔で報告書を読んでおり、こちらには見向きもしなかった。

 背後にある窓から差し込む冬の陽光を受け、ハニーブロンドが淡く輝いている。黙っていれば麗しい青年なのに口を開けばなかなか面倒くさくて頑固な性格であることを知るのは、ごく一部の者だけだ。

「……何か用事か」

 報告書から顔を上げないままシャルルが問うたので、「朗報だ」とオーレリアンは笑った。

「リリアーヌが、例の件を引き受けてくれた」

 オーレリアンが声を潜めて言うと、シャルルは目を見開いてから「そうか」と息をついた。

「リュパン元帥には申し訳ないが、夜にまで連れ出されるのは勘弁願いたいと思っていたんだ」
「おまえの姿を見ただけで、令嬢たちが寄ってくるもんな」
「君は大喜びするんだろうがな」
「おい、ひどいなぁ!」

 オーレリアンはからっと笑うが、シャルルは「事実だろう」と素っ気ない。

 恋愛関係が華やかなオーレリアンと違い、シャルルは非常にお堅い。
 デュノア公爵のたった一人の令息で、二十歳になったばかりの見目麗しい将軍。だが彼の周りに浮いた噂は一切なく、彼にアタックしては玉砕する令嬢たちが、後を絶たないとか。

(こいつはきっと、リリアーヌを特別扱いしているんだろうな)

 多分、であるが、シャルルはリリアーヌのことを好いている。彼女のことを五つ年上の補佐官ではなくて憧れの女性を見る目で見つめていることに、オーレリアンは少し前から気づいていた。

 王城使用人間での恋愛が禁止されているわけではないし、オーレリアンは他人の色恋沙汰に首を突っ込むのが好きだ。とはいえ、この生真面目で頑固な青年に関しては下手に突っ込めばこじれてこじれてこじれまくりそうなので、知らないふりをしていた。

 ただし、リリアーヌは下級貴族の娘だ。名門公爵家の跡取りであるシャルルとは、身分が釣り合わない。
 そんな二人が少しでも一緒にいられる時間を提供できれば、とオーレリアンは我ながら頑張っていると思う。

「せっかくだしその日の夜、ここで三人で飲まないか」
「いや、翌日に備えて帰宅して寝るためにパーティーを欠席するのではないのか」
「俺たちはリリアーヌに依頼された『仕事』をするというていなんだから、即帰宅したら怪しまれるだろう。皆を帰らせた後、ほどほどの時間になるまでゆっくり過ごす方がいいだろう」

 オーレリアンの言葉には説得力があったようで、シャルルも「……それもそうだな」とうなずいた。

「だが、酒は禁止だ」
「ちっ……まあ、リリアーヌにも没収されるだろうからな。分かったよ」

 上司も同僚もお堅いと、やりにくいものである。