リリアーヌは、そっと自分のお腹を撫でた。

 お腹の子は順調に成長し、夏には生まれる予定だ。既にシャルルが医者や産婆の手配をしており、「妻の出産の際には、必ず付き添います」と騎士団でも宣言しているという。

「出産の付き添いなんて不要だろう」と毒を吐く者もいたが、そのようなことを言う者はリュパン元帥に首根っこを掴まれてどこかに消えていったという。
 その後戻ってきたときには、「そうだよな! 奥方が心配だものな!」と手のひらを返していたとか。

「それは……君には本当に、すまないことをした。僕も、君に望まぬ婚姻を押しつけたという負い目もあって」

 シャルルが慌てて言うので、リリアーヌは小さく笑った。

「大丈夫ですよ。……結婚を承諾したときは、補佐官として将軍の生活を公私にわたりサポートするべきだと思っていました。でも今の私は、私が望んであなたのそばにいます。私が望んだから……この子を産んで育てたいと思っているのです」
「リリィ……」
「シャルル。私、自分のことが自分でも分からなくて、ずっと言えなかったのですが」

 ……私もあなたのこと、好きです。
 夫の耳元でそうささやくと、分かりやすいくらい大きく肩が跳ねた。

 今までシャルルの方から「好きだ」や「愛している」と告げてきたことは何度もあるが、リリアーヌの方から「好き」とはっきり言ったのは、これが初めてかもしれない。

「リリィ……本当に?」
「はい。お待たせして、申し訳ございません。お腹の子もきっと、じれったく思っていたことでしょう」

 これまでシャルルの「好き」に「私も」と答えたことはあるが、はっきりと好意を告げることはなかった。いい年をしておきながら、恥ずかしかったのかもしれない。

「好き……シャルル、好きです」

 一度ラインを越えるとその後は驚くほどすんなりとしていて、甘えるようにシャルルの首筋に抱きつきながらリリアーヌが連呼すると、シャルルが深い深いため息をついた。