騎士団の部下たちの動きにより、元ラチエ男爵は捕らえられた。

 彼の尋問には、なんとリュパン元帥が赴いた。「なぜ弱小貴族の尋問ごときに、元帥が」と疑問に思う者もいたが、「たまには儂も、全盛期のように罪人を問いただしたい気分なのだよ」と明るく言われたため、皆閉口したそうだ。

 ……もちろんこれには、背景がある。リュパン元帥は養女であるリリアーヌを傷つけられたということで最初から怒っていたし、リリアーヌが「男爵があることないことを言うかもしれないので」と不安な気持ちを伝えたところ、では自分がと名乗りを上げてくれたのだ。

 そのおかげで、元男爵への尋問はリュパン元帥とのサシの状態で行われることになり――戻ってきた元帥の判断は、「情状酌量の必要なし」だった。彼への罰は、王都追放など生易しいものでは済まないだろう。

 なおリュパン元帥はリリアーヌに、「やつは『あること』を口走っておったが、何のことやら」ととぼけていた。リリアーヌが父の口から漏らされることを一番恐れていたものは、リュパン元帥によって封じられたのだった。

 幸いリリアーヌの方は、手首にあざができたり擦り傷ができたりした程度だったが――オーレリアンは、そうもいかなかった。

「いやぁ、斬られた時点で、あ、これやばいやつだ、って思ったんだよ。どう考えても手入れされていないナイフだったし、後からむちゃくちゃ痛くなって指先の感覚がなくなるし?」

 医務室に駆けつけたリリアーヌとシャルルが呆然とする中、左腕が包帯でぐるぐる巻き状態でベッドから上体を起こすオーレリアンは「ってことで」と明るく言った。

「俺の左腕、多分もう使えないわ。切り落とさないで済めば幸運、ってくらいかな?」
「そんな……!」
「薬では、治らないのか?」

 言葉を失うリリアーヌの肩を抱いたシャルルが硬い声音で問うと、オーレリアンは「俺も聞いたよ」と肩をすくめた。

「ざっくりやられたときに、筋肉や神経までいっちまったようでな。今ももう、左の二の腕から先の感覚がほとんどないんだよ。しかも汚ぇナイフのせいで傷口はぐじゃぐじゃで、壊疽するかもしれないらしい」
「っ……」
「なあ、おまえたち。まさかだけどどっちも、『自分のせい』だとか思っていないか?」

 そのものずばり言い当てられてリリアーヌだけでなくシャルルも黙ると、オーレリアンは小さく笑った。

「それは大間違いだ。俺は俺が望んで、おまえたちを助けようと飛び出した。その結果、もし左腕がなくなってしまったとしても……後悔なんてしないさ」
「……ふざけるな!」
「ふざけてなんかないさ、シャルル。……あのさ、俺、夢があったんだ」

 オーレリアンは窓の外を見て、静かに言った。