「お願いします、それは言わないで!」
「リリアーヌ?」
「大丈夫だ、リリアーヌ。お父様に任せてくれれば問題ない」
リリアーヌが真っ青な顔で懇願するからかシャルルが戸惑い、父親が満足そうに笑う。
「公爵令息殿。実は娘は、貴殿の――」
「やめて!」
リリアーヌが悲鳴を上げた――直後。
だんっと地を蹴る音が響き、リリアーヌたちの足下に一瞬、黒い影が生じる。
それはリリアーヌと父親の間に難なく着地するなり、目の前の中年男性の顔面を掴んで地面に叩きつけた。
「……悪いな、おっさん。うちの麗しき将軍補佐官殿に、助けを求められたもんでな」
「オーレリアン……」
へたり込んだリリアーヌが呆然とつぶやくと、こちらを振り返った赤髪の副官がにやりと笑った。
「正義の味方、参上! ってな」
「助かった、オーレリアン」
リリアーヌをそっと抱き起こしたシャルルが言うと、オーレリアンは自慢げに笑った。
「どういたしまして。いやー、しかしこのおっさん、久しぶりに見る顔だがろくでもないなぁ。こいつの始末は俺がするから、おまえたちは先に戻ってろよ。どう見てもリリアーヌの顔色、よくないし」
「……ああ、そうだな。では、すまないがそいつのことは――」
言葉の途中で、シャルルが息を呑んだ。
彼の位置からは、オーレリアンには見えない「何か」が見えていたようで、「オーレリアン!」と叫ぶ。
……だが、遅かった。
オーレリアンの右手で顔を押さえ込まれるリリアーヌの父の手が、動いた。その手が握っているのは、日陰にいるせいで黒光りして見えるナイフで――それが、オーレリアンの左腕に向かって振り下ろされた。
ザクッ、と刃が肉を断つ音が響き、オーレリアンが低いうめき声を上げる。
「ぐっ……!?」
「オーレリアン!?」
「っ……!」
悲鳴を上げるリリアーヌの肩をそっと押したシャルルが、ピン、と指の先で剣の鍔の部分を弾いて抜刀し、駆け出す。
そうして瞬きするほどの間に距離を詰めたシャルルの剣が汚れたナイフを弾き飛ばし、空いている方の手でリリアーヌの父の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。
ぐぎゃっ、のような変な悲鳴を上げて壁に背中をぶつける男にはもう一瞥もくれず、シャルルはオーレリアンのもとに向かった。リリアーヌも慌てて、彼に駆け寄る。
「オーレリアン!?」
「っ、ははは! 俺も年を取ったかねぇ」
オーレリアンはナイフで切り裂かれた左腕を右手で覆っているが、白い手袋がじわじわと赤く染まっていくのを見ていてリリアーヌは目眩がしそうになった。
「笑えない冗談を言うな。……立てるか? 右腕を貸せ」
「これくらい大丈夫だっての。それより――」
「リリアーヌ?」
「大丈夫だ、リリアーヌ。お父様に任せてくれれば問題ない」
リリアーヌが真っ青な顔で懇願するからかシャルルが戸惑い、父親が満足そうに笑う。
「公爵令息殿。実は娘は、貴殿の――」
「やめて!」
リリアーヌが悲鳴を上げた――直後。
だんっと地を蹴る音が響き、リリアーヌたちの足下に一瞬、黒い影が生じる。
それはリリアーヌと父親の間に難なく着地するなり、目の前の中年男性の顔面を掴んで地面に叩きつけた。
「……悪いな、おっさん。うちの麗しき将軍補佐官殿に、助けを求められたもんでな」
「オーレリアン……」
へたり込んだリリアーヌが呆然とつぶやくと、こちらを振り返った赤髪の副官がにやりと笑った。
「正義の味方、参上! ってな」
「助かった、オーレリアン」
リリアーヌをそっと抱き起こしたシャルルが言うと、オーレリアンは自慢げに笑った。
「どういたしまして。いやー、しかしこのおっさん、久しぶりに見る顔だがろくでもないなぁ。こいつの始末は俺がするから、おまえたちは先に戻ってろよ。どう見てもリリアーヌの顔色、よくないし」
「……ああ、そうだな。では、すまないがそいつのことは――」
言葉の途中で、シャルルが息を呑んだ。
彼の位置からは、オーレリアンには見えない「何か」が見えていたようで、「オーレリアン!」と叫ぶ。
……だが、遅かった。
オーレリアンの右手で顔を押さえ込まれるリリアーヌの父の手が、動いた。その手が握っているのは、日陰にいるせいで黒光りして見えるナイフで――それが、オーレリアンの左腕に向かって振り下ろされた。
ザクッ、と刃が肉を断つ音が響き、オーレリアンが低いうめき声を上げる。
「ぐっ……!?」
「オーレリアン!?」
「っ……!」
悲鳴を上げるリリアーヌの肩をそっと押したシャルルが、ピン、と指の先で剣の鍔の部分を弾いて抜刀し、駆け出す。
そうして瞬きするほどの間に距離を詰めたシャルルの剣が汚れたナイフを弾き飛ばし、空いている方の手でリリアーヌの父の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。
ぐぎゃっ、のような変な悲鳴を上げて壁に背中をぶつける男にはもう一瞥もくれず、シャルルはオーレリアンのもとに向かった。リリアーヌも慌てて、彼に駆け寄る。
「オーレリアン!?」
「っ、ははは! 俺も年を取ったかねぇ」
オーレリアンはナイフで切り裂かれた左腕を右手で覆っているが、白い手袋がじわじわと赤く染まっていくのを見ていてリリアーヌは目眩がしそうになった。
「笑えない冗談を言うな。……立てるか? 右腕を貸せ」
「これくらい大丈夫だっての。それより――」