シャルルたちが遠征に出て、二十日ほど経った日のこと。

 昼にリリアーヌが執務室にいると、城内郵便係の少年が急ぎやってきた。彼は西の砦から早馬で届いた知らせを手にしていたようで、リリアーヌはすぐにそれに目を通した。

 和平交渉の結果についての報告だろうとは分かっていたが、そこに書かれていたのはリリアーヌの予想を裏切る内容だった。

(共和国軍の襲撃を、デュノア将軍が撃退……!?)

 シャルルが連れて行った書記係が記したらしき文面を見るに、西の共和国との交渉を翌日に控えた日の夜、共和国軍の密偵がシャルルたちが滞在する砦を襲撃したそうだ。

 何の理由があってかまでは判明していないそうだが、ちょうどそのとき見回りをしていたシャルルとオーレリアンが侵入者に気づき、すぐさま戦闘態勢に入った。そのおかげで密偵たちは全員捕らえられて、多少の負傷者は出たものの騎士団員にも砦の使用人にも死者は出なかった。

 シャルルたちは夜間の襲撃という非道なことをした共和国軍を糾弾して、王国側に有利なカードを得た状態で交渉を行った。密偵を全員生きて捕らえたのも、大きかったようだ。

 共和国軍は完全敗北を前にぐうの音も出なかったようで、シャルルが提示した諸条件に唯々諾々と従ったという。

(すごい……! 決裂必至と言われていた交渉を、大成功させるなんて!)

 思わず報告書を手に、誰もいない執務室でスキップしていた。もしオーレリアンが見ていたら「はしゃぎすぎだろう」と笑ったかもしれないが、そんなお調子者の同僚もまだ西の空の彼方だ。

 報告書には、早ければ十日ほどで帰還できると書かれていた。末尾に記された日付を見てから、リリアーヌは執務室の壁に掛けている木製の暦を見る。

(帰還予定日は……ここね)

 リリアーヌはシャルルたちの帰還予定日のところに、画鋲を刺した。それを少し離れたところから眺めて、なんだか誇らしい気持ちになっていたリリアーヌだが――ふと、あることに気づいた。