シャルルが遠征に出ている間のリリアーヌは、王都にある別の家で寝泊まりすることにしていた。そちらの方が、ばれる確率が低くなるからだ。

 だがそれでは不便もあるだろうし仮にも次期公爵夫人なのだからと、シャルルの屋敷にいるメイドの一人がオールワークスメイドとしてリリアーヌの家に待機してくれていた。また庭師の高齢男性も近所に住む老人の役になり、リリアーヌの身辺警護を担ってくれる。

「奥様、本邸からお手紙です」

 シャルルが遠征に出て数日後、どこか緊張した面持ちのメイドが手紙を持ってきた。

(返事、来たわね)

 リリアーヌはどきどきしつつそれを受け取り、ペーパーナイフを入れた。そこに書かれているのは……。

「……よかった。面会が叶うそうよ」
「よろしゅうございました。……ですが、大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫よ。……そろそろ、私も向き合うべきだから」

 リリアーヌはそう言って、メイドに微笑を返した。

 ……先日、リリアーヌは公爵邸に公爵の見舞いをしたいという旨の手紙を送った。
 握り潰されても仕方ないと思っていたのだが、思いのほか早く色よい返事が来たので何よりだ。

(公爵閣下も、いつまでも私を突っぱねるわけにはいかないとお思いなのかしら)

 手紙の内容をじっくり読んでから封筒ごと火にくべるようメイドに言って渡し、リリアーヌは暖炉で燃える火をじっと見つめていた。