「家のことみたいだから、とやかく言うつもりはないけど……さすがに心配になってくるな」
「そうですね。朝にお見かけするたびに、顔色も悪くなっているように思われますし」

 話をしながらも抜け目なくサンドイッチを狙ってきたオーレリアンの手をはたき落としながら、リリアーヌは相槌を打つ。

 今朝もシャルルは来たのだが、彼はリリアーヌたちの方を見ずに「これをよろしく」と仕事内容がリストアップされたものを置いていくなり、執務室を出てしまったのだ。滞在時間は二十秒にも足りず、リリアーヌもオーレリアンもぽかんとしてしまった。

「オーレリアンも、負担は大丈夫ですか」
「ん、平気平気。元々シャルルは請け負う仕事の量を調節していたみたいだから、まだなんとかなりそうだ」

 オーレリアンはリリアーヌによってはたき落とされた手の甲をさすりながら言い、やれやれと立ち上がった。

「だがまあ、できるならここしばらく休んでいる理由だけは聞きたいよな」
「そうですね。オーレリアンなら、うまく聞き出せるのでは?」
「いやいや、おまえがかわいくおねだりすれば教えてくれるんじゃないか?」
「なんだかあなたの表現はいちいち卑猥なので、嫌です」
「おい」

 オーレリアンに構わずサンドイッチを平らげたリリアーヌは、立ち上がった。

(今日の仕事は、夕方には終わりそうね)

 オーレリアンを放置して執務室に戻るが、そこはしんとしている。あのデスクの向こうにある椅子に部屋の主が座らなくなってから、何日経つだろうか。

(……無理はなさらないでくださいね、シャルル様)

 いつシャルルが戻ってきてもいいように毎日リリアーヌが丁寧に拭いている椅子を一瞥してから、リリアーヌは午後からの仕事に取りかかることにした。