朝、デュノア将軍の執務室にて。

「……ということで、僕たちは結婚した」

 ドアをしっかり閉め、廊下に誰もいないのを確認した上でリリアーヌとシャルルが結婚とその経緯を報告すると、赤髪の同僚は口を変な形に開いた格好で固まった。

「……はー……えっ? まじで? シャルルの妄想が爆発したわけじゃなくて?」
「口が過ぎるのではないか、ブラン副官」

 シャルルが冷めた口調で言うと、オーレリアンはようやくこの話が冗談でもシャルルの妄想でもないと分かったようで、「へえーぇ……」とにやにや笑い始めた。

「それはそれは、とんでもないニュースだな。おまえの親父さんについてはまあ、お大事にとしか言いようがないが……まさか俺の上官と同僚が結婚するとは。それも、俺に何も言わず!」
「ごめんなさい、オーレリアン。驚かせてしまったでしょうけれど……」
「いや、それも仕方ないって分かってるから気にするな。……にしても、おまえも一気にでかいものを背負うようになったな、シャルル」

 陽気な態度を引っ込めたオーレリアンに言われて、シャルルはうなずいた。

「確かにそうだが、いずれもいつか向き合わなければならないと思っていた問題だ。むしろ、正騎士になってから今日まで大きな波もなく過ごせたのが奇跡のようなものだ」
「それならいいんだが。……まずおまえたち、新婚ってことを隠せるか?」
「大丈夫ですよ。なぜなら、ほとんど以前と変わりはないのですから」

 リリアーヌは、胸を張ってオーレリアンに言った。

「変化らしい変化は、私の居住地くらい。私たちはこれまでどおり三人で仕事をするのみですから、『いつもどおり』を貫けばいいだけのことです」
「いや、それはそうだが……おい、シャルル」
「何だ」

 オーレリアンがシャルルの肩に腕を回して引き寄せ、二人で額をつきあわせて何か小声でやりとりをして――シャルルの拳が、オーレリアンの横っ腹に決まった。

「うぐぉっ!?」
「すまない。今、騎士団員としてふさわしくない発言が聞こえた気がして」
「お、おまえ絶対、剣を持つより殴った方が強いだろ……。今度遠征任務があったら、ナックル装備で行けよ……」
「それは騎士道に反するので、遠慮させてもらう」

 シャルルはしれっと言うとうずくまって低いうなり声を上げるオーレリアンを一瞥し、そしてリリアーヌを見て少し気まずそうに目線を落とした。

「……そういうことだから、僕たちはこれまでどおりやっていこう。いいな、リリアーヌ?」
「はい、もちろんでございます。オーレリアンも、よろしくお願いします」

 リリアーヌが言うと、オーレリアンは「おう」と笑顔で言った。

「シャルルの副官として、リリアーヌの同僚として、おまえたちのことをサポートさせてもらうぜ。なに、俺はこれでも感情を隠すのが上手だからな。おまえたちの秘密が漏れないようにするなんてお安いご用だ」
「そう言ってくれると助かる」

 シャルルも言ったので、リリアーヌはうなずいたのだった。