翌朝、大きなベッドで目を覚ましたリリアーヌは最初、ここがどこか分からなかった。

(ああ、そうだわ。私、シャルル様と結婚して……)

 王城の宿舎にあったものの四倍はありそうな幅のベッドに寝ているのは、リリアーヌ一人だけだ。昨日は夜にこの部屋に入ったため、室内をゆっくりと見ることもなかった。

 カーテン越しに、朝日が透けて見える。リリアーヌの隣には誰もいないが、そっとシーツに手を滑らせるとそこまでひんやりしていなかった。

「シャルル様……」

 靴を履き、窓辺に向かう。カーテンを開けると、柔らかな朝日が室内に差し込んできた。

 この部屋からは、シャルルの屋敷の庭がよく見えた。庭師が丁寧に整えてくれている庭の向こうには、王都の朝の風景が広がっている。この屋敷は裕福な商人などの邸宅が連なる区域にあってリリアーヌはあまり馴染みがないので、見慣れたはずの王都の風景が少しだけ新鮮に思われた。

 ふと眼下で音がしたので、リリアーヌは窓を開けた。ヒュン、ヒュン、という音が大きくなり、庭で剣の素振りをするシャルルのつむじが見えた。

(シャルル様、朝から鍛錬をなさっているのね)

 オーレリアンが言っていたのだが、士官になるまでのシャルルの剣技はいわゆる「模範」と呼ばれるようなものだったらしい。彼は幼少期より高名な騎士から剣術を教わっていたらしく、その剣捌きは美しいの一言に尽きていたそうだ。

 だが士官になってからのシャルルは、美しいだけの剣技では強くなれないと気づいたようだ。彼は美しさよりも正確さ、力強さを優先させた剣の扱いを学ぶようになり、オーレリアンもそんな上司を鍛えたという。

 だからか、シャルルの剣の動きは疾風のごとく鋭く、一撃一撃に魂が込められているとリリアーヌには感じられた。彼はオーレリアンのような大柄になれなかったのが悔しいらしく、体格で勝てない分速さと正確さを鍛えることにしたとか。

(……他の「お飾り」と言われる将軍たちは、鞘から剣を抜くこともないと言われているわ)

 きっと「お飾り」将軍も、国として必要な存在なのだろう。だがシャルルは自分の実力を認められないのを悔しがっているようで、精進に向けて日々努力している。
 彼のそういうところが、リリアーヌは好ましいと思っていた。

 リリアーヌはしばらくの間、じっとシャルルの動きを見ていた。だがしばらくするとシャルルも視線に気づいたようで、剣を鞘に収めた彼は顔を上げ――三階の窓からリリアーヌが見ていることに気づくと、ぎょっと目を見開いた。

「リリアーヌ……!?」
「おはようございます、シャル――」
「部屋の中に入ってくれ!」

 皆まで言わせずシャルルは叫ぶと、だっと屋敷の玄関に入ってしまった。