リリアーヌが結婚する、前日の昼。
「なー、おまえって、シャルルのことが好きなんか?」
「……はい?」

 藪から棒に投げ込まれた質問に、リリアーヌは変な声を上げてしまった。

 リリアーヌは、王国騎士団の将軍に仕える補佐官である。騎士ではないので剣を持つことができず、その代わりにペンで上司を支えている。

 艶のある栗色の髪は、書類作業の際に邪魔にならないようにハーフアップにまとめている。本当は一つにまとめてしまいたいのだが、独身女性は髪を下ろすのが基本だ。

 午前中の仕事を済ませて、上司の執務室の脇にある休憩室で昼食休憩を取ろうと思っていたら、ドアのノックもなしに同僚が入ってきた。せっかく一人でゆっくりしようと思っていたのに、と思いつつも「俺も一緒にいい?」と聞かれると断れなくて、彼が正面の席に座るのを許した。

(……許すのではなかったわ)

 リリアーヌはため息をついて、灰色の目でじろっと正面の同僚をにらんだ。

「いきなり何をおっしゃるのですか、オーレリアン・ブラン副官」
「いや、ずっと気になっていたからさ。おまえって実はシャルルに恋する乙女なのかなぁって」

 同僚ことオーレリアンはからりと笑って、リリアーヌの額をちょんとつついた。赤い髪は粋な形に整えられており、緑色の目が面白がるようにこちらを見てくる。

 将軍付の副官で、伯爵家の嫡男。しかもなかなかの色男で口も達者なので非常にモテるそうだが、このデリカシーのないところがリリアーヌは好きではなかった。

「だからといって、そういうデリケートなことを無遠慮に聞かないでください。……それよりあなた、お弁当はないのですか?」
「やー、それがうっかり忘れてしまって。あ、それおまえの手作りだよな? ちょっとくれよ」
「……一つだけですよ」

 うざ絡みされるのも面倒くさいので一つだけ譲ると、オーレリアンは「うまそう! ありがとうな!」と戦利品をもぐもぐし始めた。

(この人、私より年上なのに……)

 リリアーヌより二つ年上だから確かもう二十七とかそれくらいなのに、子どもっぽい男だ。