そうしていると、シャルルの寝室に到着した。ドアをノックすると、中から「どうぞ」とあまり生気のない声が返ってきた。

「失礼します、リリアーヌです」

 リリアーヌが入室すると、部屋の奥にあるベッドに腰掛けていたシャルルがこちらを見た。

 もはや寝間着ではなくて下着のようなデザインのネグリジェを着せられたリリアーヌと違い、シャルルはきちんとした寝間着を着ていた。襟元にフリルがついたシャツは貴族男性の一般的な寝間着のデザインで、細身のシャルルが着るからかなかなか様になっていた。

 何かを読んでいたらしい彼は手元のものをテーブルに置き、自分の隣をちょんちょんと指さした。座れ、ということだろう。

(……腹を括るしかないわね)

 リリアーヌはうなずいて彼のもとに向かい――着ていたガウンをさっと脱いだ。

「リリ――え、えええっ!?」
「メイドが着せてきました」

 こちらを見るなりシャルルが目を見開いて悲鳴を上げ、色白の頬をさっと赤らめた。
 ガウンをベッドに置いたリリアーヌが風呂上がりで下ろしたままの髪を掻き上げると、シャルルは真っ赤な顔を両手で覆いうつむいてしまった。

「……あいつら、やけに調子がいいと思ったら」
「かわいいデザインですよね」
「かわ……っ……それ、着てくれ」

 シャルルがうつむいたまま示す「それ」とは、無論ガウンのこと。

「せっかく脱いだのに、ですか?」
「いいから着てくれ!」
「はい」

 命令されたので素直にガウンにもう一度袖を通して、ウエストの紐もしっかり結ぶ。
 そこでようやくシャルルは顔を上げて、リリアーヌのネグリジェが見えなくなったのを確認して大きくため息をついた。

「君はもっと、慎重になってくれ。普段の冷静さはどうしたんだ」
「いえ、これでもかなり冷静な方だと思いますが」

 むしろ冷静だから、メイドの言うとおりシャルルの前でネグリジェ姿を披露できたのだが。

 しれっとするリリアーヌに「……分かった、この件はもういい」と適当なことを言ったシャルルは、少し表情を改めた。