(……ああ、そうか。いわゆる「初夜」だものね)

 どのメイドの趣味なのかは分からないが、着せられたネグリジェはほぼ寝間着としての役割を果たせていなそうな透け具合だった。
 これ一枚だけで廊下を歩いてボーイたちにでも遭遇したらもはや見せる痴漢なので、「シャルル様の前でお脱ぎくださいね」とその上にガウンを着せられた。

 メイドたちに別れを告げて一人シャルルの寝室に向かって歩きながらも、リリアーヌはどこか冷静だった。

(……公爵閣下は、なるべく早くシャルル様の子どもができるのをお望みみたいね)

 ふう、と息をつき、リリアーヌはガウンの合わせをそっとかき寄せた。

 十八歳までは実家で過ごし、それ以降は文官として、二十一歳以降は将軍付補佐官として生きてきたリリアーヌだが、元々恋愛にそこまで興味がなかったこともあり、これまで異性とふれあった経験はない。

 お堅いシャルルはともかく、オーレリアンは毎日恋人が変わるような男であるが、彼に性的な意味で手を出されたことは一度もない。
 おそらく自分のようなかわいげのない女は興味がないのだろうし、もし彼からそういう目で見られたら同僚としてやっていけなくなると分かっているので、彼と異性の友人のような間柄を貫けたのはリリアーヌにとっても嬉しいことだった。

(閨の知識は知っているけれど……)

 令嬢教育の一環でもあったし、文官の時代には女性の同僚たちがそういう話をするのを聞いていた。
 いわゆる耳年増というやつではあるが、いちいち赤面したり恥じらったりするような年齢は通り過ぎたので、シャルル相手でもなんとかなるのではないか。

(子どもも……無事に生めたらいいけれど)

 母子の健康のためにも、初産は二十代前半くらいに経験した方がいいと、医者たちも言っている。リリアーヌは二十五歳なので遅すぎることはないが、高齢出産は母胎にも子どもにも影響が出やすい。

 リリアーヌのような息子よりも五つも年上の嫁を迎えることについて、公爵は相当渋っただろう。だがシャルルも意地を張っていたようだし、このまま息子が家を飛び出したりするよりはと、リリアーヌに賭けることにしたのかもしれない。

(プレッシャーがすごいわね)

 跡取りを産め、男児を産め、優秀な子を産め、という圧力に貴族の奥方たちが苦しんでいるのだ、ということをリリアーヌは今になって実感していた。