リリアーヌは昼に聖堂でシャルルと別れてからは別行動を取っており、おそるおそる裏口から入ったリリアーヌは、使用人たちに出迎えられた。

「ようこそ、奥様!」
「お久しぶりでございます、リリアーヌ様」
「シャルル様の奥方になられるのがリリアーヌ様で、私どもも嬉しゅうございます」

 中年のメイドが三人とコックが一人、見習いのボーイが二人と従者と庭師が一人ずつという、公爵家の嫡男の邸宅にしては使用人の数は少ない。

 だが彼らはリリアーヌとオーレリアンが遊びに来たときにも温かく迎えてくれたし、「お二人と知り合ってからのシャルル様は、ご幼少の頃よりずっと明るくなられました」と言ってくれた。だから、皆とも顔見知りだった。

 秘密を共有する相手が顔見知りというのは安心できるもので、リリアーヌはほっとして微笑んだ。

「ええ、どうぞよろしく。これからも仕事は続けるからあまりここにはいられないけれど、仲よくしてほしいわ」
「仲よくだなんて、そんな!」
「嬉しいです、奥様」
「さあさ、こちらへどうぞ」
「シャルル様は、既に上にいらっしゃいます」
 メイドたちに手を引かれたリリアーヌは、どきっとした。

 昼に大聖堂で落ち合ったときのシャルルは、凍てつくような眼差しをしていた。リリアーヌの方をほとんど見ず、機械的にサインをして機械的に髪飾りをつけてくれたように思われる。

(昨日からずっと、シャルル様とまともに話ができていないわ)

 公爵の体調不良にしても自分が跡を継ぐことにしても、彼にとっても悩ましいことばかりだろう。だから彼が素っ気ないことについて責める気はなく、むしろシャルルは大丈夫なのかと不安になってくる。

 すぐに部屋に上がろうとしたリリアーヌだがメイドたちに止められ、「初夜なのですからね」と風呂に連行されて念入りに洗われた。

 誰かに体を洗われるなんてもう十年ぶりくらいになるのでリリアーヌは慌てるが、やはり自分で洗うよりプロに任せた方が髪の艶も出たし、どうしても自力では落ちない垢も落としてもらった。

「ささ、こちらをお召しください」
「きっとシャルル様も、奥様の美しさにめろめろになります!」

 メイドたちはリリアーヌの親世代よりはぎりぎり若いか、というくらいの年齢だが、きゃっきゃとはしゃいだ様子でリリアーヌにネグリジェを差し出してきた。
 彼女たちの様子からも、リリアーヌの存在が好意的に受け止められていること、そして――彼女らがシャルルを慕っていることが分かるので、その点は安心できた。

 だが。