目の前に五十嵐くんが立っている。

 私、河合さとこはゴミを持っている。

 五十嵐くんは背が高くて金髪で、運動神経はいいけど、たまに授業に出てこなかったりするような生徒で、私は放課後に押し付けられた片付けでゴミを持っていっているような地味っこなので、

 いたたまれない!!

 これは、完全に賭けられているやつですよね!!

 五十嵐くん、なんかすみません!!

「河合さん、俺と、付き合ってくれない?」

 りーん、ごーん、

 え、なんの音ですか?

 チャイムですか?

 好きです。

 私の心の鐘の音でした。びっくりしました。

 いや、わかってますよ、私が付き合うっていうか、断るか、賭けてるんですよね、はい。

 わかってます。

 私のことを、五十嵐くんみたいなイケメンで、なんでもそつなくこなせる人が好きになるわけないですよね。

 私のことを好きになってくれるような人、いるわけないですよね。

 わかってます。

 わかってますとも!!

 けどですね、私にだって心はあるんですよ、好みだってあって、どんくさくても、いや、どんくさいからこそ、なんでもそつなくそなせる五十嵐くんが素敵に思えていたわけでして。

「よ、よぉ、よろしくおねがいします!!」

 声、ひっくり返ったぁぁぁーー!!

 絶対絶対笑い者にされるんだぁ!!

「ほ、ほんと?」

 こっちの台詞だよ。

 さぁ、みんなが、なーんちゃってって出てくるのわかってるんだから!!

 ずぼっ!

 ばさっ!

 茂みから、五十嵐くんといつも一緒にいる男子二人が飛び出してきた!

「いっくんよかったね!!」

「五十嵐おめでとうなぁ!!」

「お、おまえら! なんでいんだよ!!」

「パパうれしいぞぉ!」

「やめろ、パパとか言ってんな!」

「反抗期ね、河合さん、この子こんなんだけど、純情ボーイなの、保証するわぁ」

「いつから、母ちゃんになったんだよ」

 たのしそうでなにより!

 ネタバラシはこれからかな?

「とりあえず、手伝うわ」

 五十嵐くんが、私の手からゴミをとりあげる。

「え、え、え」

「早く片付けて帰ろうぜ」

 え、え、え、え、え、

「俺、見た目こんなだから、ぜってぇ振られると思ってた。うれしい」

 振り向いて、少し赤い顔。

「いっくん、よかったねぇ!」

「今日はお赤飯よぉ!!」

 だまされている。だまされているとはおもうんだけど。

 このままずっと騙されてたい!!

 五十嵐くんが私のことを好きだなんてそんなことないってわかってるんだけど、だけど、

「私も、うれしい」

 このまま、私は、騙されてみることにしました。




 おしまい