(でも、練くんにお似合いなのは同じように頭がいい美人な女の子だよね)

見た目も頭脳も自分には待ち合わせていない。唯一あるとすれば底抜けの明るさくらいだ。ネガティブなことを考えようとすると、それに蓋をするかのように思考が変わる。

(いけないいけない!今は問題に集中しないと!)

美人な女の子と楽しそうに歩く練の姿を想像しそうになり、慌てて日向は問題と向き合う。xの項、数の項をそれぞれ移項していく。何とか答えを書くことができた。

「どうかな?合ってる?」

緊張を覚えながら答えを練に見せる。練は数式や答えをジッと見た後、日向の方を向いて微笑んだ。

「正解。よくできました」

「よかったぁ」

授業で先生が教える数学は全く解けないのだが、何故か練が隣にいると少し難しくても解ける。彼の教え方が先生よりも上手なのだろう。

練の手元に置かれたノートが見えた。そこには円が描かれており、数式が書き込まれている。中学校の数学の授業で見たことのあるものだ。

「これってπの問題だっけ?」

「ああ。円周率の問題だな」

円周率とは何か、日向は人に聞かれても答えることはできない。ただ3.14から永遠に数字が続いてあり、それをπと表記するのだと先生が言っていたような気がするとぼんやりとした思い出を引っ張り出した。