日向に勉強を教えている男の子の名前は、草薙練(くさなぎれん)。高校は別だが中学校が同じで、バドミントン部という部活も同じだった。その頃から二人は仲のいい友達という関係である。

(でも、あたしは違うんだよね。練くん)

近い距離に高鳴ってしまう胸を日向は押さえたくなる。この心臓の鼓動に練が気付いてしまったら、そう思うと怖くなっていく。これはきっと叶わない想いだと頭の片隅で中学生の頃から思っているからだ。

「ーーーこういうことだ。わかったか?」

「なるほど。練くん、相変わらず教えるの上手だね」

「口はいいから手を動かせ」

「は〜い」

日向が方程式を解き始めると、練は自身の勉強に取り掛かる。その教科書に書かれた方程式は日向が説明されても理解できないようなものばかりだ。その教科書を見るたびに、世界が違うのだと日向は思い知らされる。

練は中学生の頃から頭がよく、テストでは毎回学年一位だった。そんな彼は日向の勉強をよく見てくれた。高校は別れてしまったというのに、「勉強するぞ」と連絡をくれる。そんな練に日向は惹かれていた。