(どうやって解くんだっけ?忘れちゃったよ〜)

大声を出して喚きたくなるものの、日向はそれをグッと堪えた。ここは学校の教室でも自分の家の自室でもない。多くの人が利用する図書館なのだ。大声は厳禁である。

日向が心の中で「うーんうーん」と呟きながら考えていると、「わからないところができたか?」と声が降ってきた。その声に日向の胸が高鳴り、顔と耳が赤く染まる。

顔を上げた先にあったのは、短めに揃えられた黒髪に眼鏡をかけたいかにも真面目で勉強ができそうな男の子の顔だった。その整った顔の彼はこの辺りでは有名な進学校の学ランを着ている。

思わず見惚れてしまう日向に対し、男の子は少し控えめの咳払いをした。その音に日向の意識は目の前のプリントの問題に再び向けられる。

「どこがわからないんだ?問題を見ているだけじゃいつまで経っても解けないぞ」

「えっと、ここからわからなくて……」

日向が問題を指差すと、男の子は「一次方程式か」と呟いた後、日向の隣に座って解き方を丁寧に説明する。ふわりと体から漂った石鹸のような香りに、日向の意識はまた彼に向けられそうになってしまった。