「いつも楽譜見てるね」
「うん。課題曲のだよ。これね、高校生が作曲したんだって。すごいよね」
「え、高校生の曲を高校生が演奏するの?」
「そう。『煌めきの朝』っていうんだけどね」
「へえ」
「聴いてみる? 動画あるよ」

叶居さんがスマホを取り出してワイヤレスのイヤフォンを片方貸してくれた。

僕が叶居さんの座っている階段の少し下に座ると、叶居さんが画面を僕にも見えるように傾けてくれた。小さな画面を共有するため必然的に同じ段に座りなおし、距離が近くなった。

明るくて楽しげな曲だということは分かったけれど、僕は叶居さんの隣に座っているということに気をとられてしまって、自分の心臓の音ばかりがうるさくて音楽がちゃんと頭に入ってこなかった。