「なんかすごい良い匂いする」
「叶居家特製の炭火焼BBQサンド! パパがもうじきお店出すから毎日試作してるんだ。夏は海でも販売するんだって」
「へえ、あ、それで引っ越し」
「うん、そう。あれ、引っ越す理由、言ってなかったっけ」
「初耳だよ」

駅から数分歩いただけで砂浜と海が広がる。道路沿いの歩道と砂浜を区切る防波堤のような長いコンクリート壁に腰掛けて、叶居さんとサンドウィッチを食べる。他愛ないことなのに、非日常感がすごい。
時折吹く潮風が気持ちよくて、叶居さんの持ってきてくれたサンドウィッチが美味しいせいだ。

何より、隣に私服姿の叶居さんがいる。

「おいしい」
「でしょ。たくさんあるよ、残ったらお土産ね」
「いいの? ありがとう」

柔らかい肉とトマトやアボカド、オレンジにナッツと、具だくさんのサンドウィッチを三枚分食べてごちそうさま、と言ったら叶居さんがもっと持ってくればよかったなあと呟いた。