「転校するって、本当?」
「うちの担任が冗談言うと思う?」
「言わないねえ。いつ? 遠いの?」
「ずけずけ訊かないでよ。話したこともないのに」
「あっ、ごめん」

上階へ向かう階段の下っ端で小さくなって座っている叶居さんと、通りかかった僕との間に、沈黙が滞る。叶居さんは俯いて膝に鞄を抱えて座ったまま動かないので、これはおそらく僕が下へ降りていくことでしか抜けることのできない沈黙だ。

元から話しかけたりなどせずに通り過ぎればよかったのかもしれない。そっとしておく、が正解だったのかも。僕には会話の正解がわからない。あんな騒ぎのあとで会ってしまったとき、その話題に触れずに叶居さんの存在をスルーするというのは、バツが悪いから無視するという自分側の都合のような気がしたのだ。

だけど僕はたいていハズレを選択してしまうからこそ、友達も作れず、こんなふうに人の通らない場所を選んで過ごしている。僕は今回もまたハズレを選択してしまったのだろう。嫌われてしまったかもしれない。いたたまれなさが膨れ上がって、歩くのを止めてしまった足の筋肉に動けと脳が命じた。