本気になったら、たぶん今よりはもう少しマシなプレイはできると思う。だけど同時にみんなの弱点とかいろいろがもっと気になって言わずにいられなくなってしまう。叶居さんに言ってしまったように。
叶居さんはたまたま受け入れてくれたけれど、中学の頃までにも何度か似た場面があって、こういうことは特に仲が良い間柄でも慎重でいなければならないらしいということを学んだ。ましてや選手に選ばれるほどの実力のない僕なんかが出しゃばるなんて。
本気にならなければ、何も言わなければ、少なくともラケットを握ってここにいられる。僕はそれくらいで満足しているべき人間なんだ。

「ごめん、だけど私、カナデくんが課題曲にアドバイスくれたとき、発想が柔らかくて視野が広い人なんだなぁって、ちょっと尊敬かもって思ったのに」

叶居さんは僕の方にまっすぐ顔を向けて言い終えると、目を合わせない僕に呆れたように一歩ゆっくり後ずさりして、そしてくるりとスカートを翻して走っていってしまった。