「音楽は、歌詞がなければイメージだけだし、きっと別に『朝』じゃなくてもいいんだと思う。叶居さんが楽しいことをしているときのことを考えて弾けばいいんじゃないかな」
「……カナデくん」
「あっ、弾けもしないのにごめん」
「あ、ううん! そうじゃなくて、なんかすごいね」
「え、すごくないよ、出しゃばっちゃって」

相槌に留めると思ったばかりなのに、僕は心の声を口に出してしまっていた。叶居さんが目を丸くして僕を見ている。珍しく長話をするとやっぱりおかしなことになるんだ。僕は叶居さんのほうを見づらくなって、視線を落として階段の滑り止めの溝の本数を数えた。

「ね、じゃあさ、楽しいことするの手伝ってよ、予定立てて、それを指折り数えてワクワクする気持ちで弾くから」
「え、僕が? 叶居さん友達いっぱいいるのに」
「お願い。みんなで遊んでると転校のことで変に気を遣われてる空気感じちゃって。私といるとみんなバカ騒ぎするの遠慮してるから、居心地悪くて」