「転調で雰囲気が変わって、特に後半の歌う木管パートとそのあとの華やかな金管がいいでしょ」
「う、うん」
「でもね、難しいんだよ、これ」
「そうなの?」
「カナデくん、楽器やらないの?」
「うん」
「名前。お父さんかお母さんが楽器やってて名付けたのかと思ったんだけど」
「ぜんぜん、家族の誰もやってないよ。てか苗字だから」
「あ! そっか! ごめん、でも良い名前、あ苗字か」
「あり、がとう」

聴く分にはシンプルで難しいというイメージはなかった。とはいっても、僕は名前からは予想外に? 楽器をやらないから、演奏する上での難易度は分かりようがない。

「すごく直球な曲だから、キビキビしないと格好がつかなくて出だしでいつも注意されちゃうんだよね。出だし揃えるの難しいんだよ、皆で他の人の出方を窺っちゃうから、どうしても気持ちで音が遅れちゃうの」
「そうなんだ」
「うん。コンバスは皆の後に入るんだけど、出だしが揃わないから入ろうとすると先生が止めちゃって、おっとっと、ってなる」