パトリスを弟子にすると決めたアンブローズだが、もう一人弟子をとろうとしていた。もう一人の弟子兼オルブライト侯爵家の跡取りとなる者だ。
 初めは親戚や傍系家門の子どもたちに目星をつけていたが、弟子にするにはどうもそりが合わなかった。
 幼児の頃からオーレリアのもととで育ったアンブローズからすると、彼らはプライドが高くて欲深く映り、教える気になれなかった。アンブローズの弟子となることに意欲的だが、それには大魔法使いの弟子となる栄誉と時期侯爵家の当主になれる機会を得たいという欲望が透けて見えたのだ。

 弟子にするなら師匠のように、地位ではなく大きな目的のために魔法を極めるような志が高い者がいい。
 アンブローズが抱く理想の弟子像に、貴族出身の魔法使いの卵たちは当てはまらなかった。そうしてアンブローズの足は、平民学校に向かようになった。
 
 王都の平民学校の中でも比較的小規模な学校を訪れた。校長が教師を兼任しているような学校だ。
 アンブローズはそこでブラッドと出会った。
 彼らの魔法の授業を見ていたアンブローズは、ブラッドの器用さに着目する。ブラッドはとりわけ魔力量が多いというわけではないが、師匠のオーレリアと同じく魔力のコントロールに優れている。そこに魔法の才を感じた。

 アンブローズは早速、校長からブラッドの話しを聞くことにした。
 ブラッドは彼の父方の祖父母と暮らしているらしい。もともとは両親と姉と兄と弟の六人家族だったが、彼が四歳の頃に一家が母方の祖父母の畑仕事をしている最中に魔物に襲われブラッド一人だけが生き残った。
 その襲撃がきっかけで、ブラッドは魔物から人々を守る仕事に就きたいという夢を持っているそうだ。魔法のコントロールに長けているのは、将来そのような仕事に就くために練習しているためらしい。

 魔法の才があり、大きな目的のために魔法を極めている。
 アンブローズはブラッドを弟子にしようと心に決めたのだった。
 
「君、私の弟子にならないかい?」

 アンブローズは校長にブラッドを呼んでもらうと、単刀直入に切り出した。まさか大魔法使いから直々に声をかけてもらえるとは思いも寄らなかったブラッドは動揺した。
 
「平民の俺なんかが、いいのですか?」
「平民だからダメな理由なんてない。二つ前の大魔法使いは平民出身だったんだよ? それに、私の師匠も平民で、素晴らしい魔法使いだった。君には彼らのような魔法使いになってもらいたいんだ」

 ブラッドはやや気後れしていたが、それでもアンブローズの提案を受け入れた。かくして弟子を得たアンブローズは、ブラッドの祖父母に事情を話し、ブラッドを引き取って自身の屋敷に住まわせた。