遺されたアンブローズは師の無念を晴らすために、仇討ちを引き継いだ。たとえオーレリアが望んでいないとわかっていても、彼女の悲願を叶えたかった。
 アンブローズはその八年後に大魔法使いになると、前プレストン伯爵がオーレリアの妹にした悪事の証拠を集めて事件を明るみに出した。すると前プレストン伯爵は家族に裏切られ、彼一人だけが監獄に送られることとなった。
 
 アンブローズは抜かりなくプレストン伯爵家に慰謝料を請求し、そのお金をオーレリアの妹に渡した。依頼、彼女をオルブライト侯爵領で匿っている。
 
 彼の師が望んでいないのに勝手に仇討ちを進めたというのに、師の望み通りの復讐ができなかった。
 使命感で動いていたアンブローズは、胸に残る虚しさとやるせなさで気落ちしていた。そんな時、彼の同期で交流があるグランヴィル伯爵――パトリスの父親が、アンブローズにパトリスの名付け親になってほしいと頼んだことで、アンブローズはパトリスと出会った。

 グランヴィル伯爵に案内されてパトリスのいる部屋へ行くと、彼女の姉のレイチェルがいた。グランヴィル伯爵が言うには、レイチェルは妹を可愛がっており、片時も離れようとしないらしい。
 レイチェルはアンブローズに気づくと、水色の瞳でじっと彼を見つめた。二歳の子どもらしくない透徹とした眼差しにいささか引っかかりを覚えたが、グランヴィル伯爵にパトリスを見せられたことで、その不可解さは霧散した。
 
 初めてパトリスと対面したアンブローズは、パトリスの銀色の髪を見て一抹の不安を感じたのだった。
 パトリスの髪色は彼女の母親から遺伝したものであり、パトリスの母親は銀色の髪を持つ者特有の癒しの力を持っていない。それでもパトリスがその力を持つかどうかはわからないのだ。
 
 もしも師匠がこの赤子を見たら、どうするだろうか。
 アンブローズは、オーレリアの真っすぐな眼差しを脳裏に描く。
 
(きっと、この子は不幸な目に遭わないよう、守ろうとするはず――……)

 だからこそ彼女の代わりに、自分がその役目を担おう。

「――決めた。君の名前はパトリスだ。時が来たら私の弟子にする。それまでは決して、誰の弟子にもなってはいけないよ?」
 
 アンブローズはパトリスに微笑むと、指の背でそっと、彼女の柔らかな頬を撫でた。