「……それにしても、桜子が『お嬢さま部』に入ってくるなんて……。もはや、お嬢さまとして申し分ない風格ですわ」

「いえ、まだまだ勉強中ですもの」


 わたしははにかんで、言葉を続ける。


「わたくし、ミレーヌのような本物の気品を身につけたいのです。自分にできるかはわからないけれど……」


 すると、ミレーヌは首をふった。


「桜子なら大丈夫ですわ。どんなに大きなお屋敷に住んでいても、どんなに美しく着飾っていても、どんなに美しい言葉づかいをしていても……最後に問われるのは心です」

「ミレーヌ……」

「わたくしはうれしいのです。あの日――わたくしが出会った小さな女の子は、自分のことが好きではないように感じました。でも……今、目の前にいる桜子の瞳からは、揺るぎない強さを感じます。立派に成長しましたわね」

「…………」


 胸がかーっと熱くなり、鼻の奥がつーんとして。

 視界が涙でにじむ。


「ありがとう、ミレーヌ」


 涙をふこうと、ハンカチを取り出して、ハッと気づく。

 あっ、これは返そうと思って持ってきた、ミレーヌのハンカチだ!


「ミレーヌ! あの、これっ!」

「……?」

「あの日、ミレーヌにお借りしたままになっていたハンカチですの。遅くなりましたけれど、ようやくお返しできますわ」