「遅いですわよ、奥田先生」


 杏奈さまが腕組みしながら言うと、奥田先生は頭をかいて、
「いや、スマン、スマン」
 と苦笑い。

 わたしの頭の中に「?」が浮かぶ。

 なぜ奥田先生がここに……?


「おっ、新入生が入部したんだったな。加賀美と椿か。異世界に行くのは今日が初めてだろう?」

「はあ……」


 奥田先生がいつものおだやかな調子で話しかけてきたけれど、わたしと理央はぽかんとするばかり。

【異世界】というワードが奥田先生の口から飛び出すなんて、とっても不思議な感じ。


「ああ、桜子さんと理央にはまだ話していませんでしたわね。奥田先生も、わたくしたちと同じ、外交官という立場ですのよ」

「「ええっ!」」


 芽亜里さまの説明に、わたしと理央はびっくり!


「そう。シュトラーザ王国は、『お嬢さま部』のためにドレスや家具を提供してくださったり、お嬢さま育成のために何かと尽力してくださってるからな。対等の立場で交流するなら、ギブアンドテイクが基本だ。王族や貴族の方々に漢字やひらがなが人気でな。十年前から、私が講師として王城まで教えに行っているのだよ」


 奥田先生のさらなる説明に、もっとびっくり!

 異なる世界がつながっている間は、言語の壁もなくなって、会話が可能になる。

 だけど、互いの言語の文字は、それぞれ見なれぬ外国語みたいなもの。

 奥田先生の講義のおかげで、漢字やひらがなを習うことは、シュトラーザ王国の王族や貴族にとって、大事なたしなみになっているらしい。