「ハンカチを」

「かしこまりました」


 男の人の声は低いけれど、やさしい雰囲気だ。


「ごめんなさいね、桜子。わたくしったら、偉そうなことを……」


 ハンカチを押し当てて、ミレーヌが涙をふいてくれて、視界が晴れていく。

 そして、ミレーヌの後ろに立っている男の人――アルフレッドと目が合った。

 白髪のおじいさんだけれど、背は高いし、背すじをピンと伸ばしているから若々しい。

 黒いスーツをびしっと着こなしていて、ミレーヌと同じように外国の人みたい。

 アルフレッドはわたしに会釈(えしゃく)すると、ミレーヌに言った。


「お嬢さま、そろそろ戻りませんと……」

「あら、もう時間なのね? でも、もう歩きたくありませんわよ」

「うーむ、仕方ありませんな。あまり目立つと問題になりそうですが……」


 アルフレッドがパチン! と指を鳴らすと、ぼわんと煙が立って――。


「わあっ!」


 わたしは、めったに出ないような大声を出した。

 いきなり、二頭の白馬が出てきたんだ!

 横並びの白馬の後ろには、大きな車輪がついた馬車がつなげられている。

 豪華な装飾がほどこされた馬車で、横の窓にはカーテンもついている。


「どうぞお乗りください、お嬢さま」


 アルフレッドが馬車の扉を開けると、ミレーヌが乗りこんだ。


「私もちょっとした魔法を使えるのですよ」


 アルフレッドは、ぽーっとしているわたしにウインクして、扉をやさしく閉めた。