「杏奈、おやめなさい」


 宝来先輩をたしなめると、九条先輩はわたしに向きなおった。


「謝る必要はありませんわ。ただ、真実を知ったからには、あなたには『お嬢さま部』に入って頂きますし、礼城町を代表して、わたくしたちと共に外交官になって頂きますわよ。よろしくて?」

「は、はい!」

「次の満月は月末の火曜日ですから、まだ間がありますわね。それまでにお嬢さまとしての基本的なマナーを習得して頂きます」


 九条先輩が言うと、宝来先輩が目を丸くした。


「えっ、まさか、加賀美さんをお茶会に……!?」

「ええ、桜子さんもお茶会に参加して頂きますわ。新入部員としてミレーヌさまに紹介するつもりです」


 宝来先輩が不安げに眉根を寄せる。


「少し早くありませんこと?」

「でも、桜子さんも早くミレーヌさまと再会したいでしょうし……」

「お茶会……?」


 わたしが首をかしげると、宝来先輩はうなずいた。


「外交は基本的に、交互に、わたくしたちがシュトラーザ王国に参ったり、反対に、ミレーヌさまをこの部室にお招きしたり……ですの。次は、わたくしたちがシュトラーザ王国に参る番ですけれど、お茶会にお呼ばれしているのですわ」


 すると、九条先輩も続けて説明してくれた。


「お茶を飲みながら、楽しくおしゃべりするだけですから、ご安心なさいな。とはいえ、大切な外交の場ですから、恥をかかないためにも基本的なマナーが必要ですわ。さっそく明日から特訓します。よろしくて?」

「はい! よろしくお願いします!」


 わたしは、ぺこりと頭を下げた。

 そして、おそるおそる九条先輩に持ちかける。


「あの……椿理央くんにも再テスト、いいでしょうか?」