「――杏奈さま。お言葉ですが……」


 それまでわたしたちの会話を黙って聞いていた雪平先輩が、おもむろに口をはさんだ。


「桜子さまは、わたくしの見立てでは、芯の強い方ではないかと……。今は混乱しているだけ。必ずや真実を受け入れて、立派な『お嬢さま部』の一員になって頂けるものと存じます」


 そう言って、うやうやしく頭を下げる雪平先輩。


「まあ、雪平がそこまで言うなら、わたくしはべつに……」


 宝来先輩が軽くせき払いすると、九条先輩はクスッと笑った。

 雪平先輩、わたしのために助け舟を入れてくれた……。

 頭を上げた雪平先輩と、視線が(まじ)わる。

 ドキッ。

 やわらかい表情で、うなずく雪平先輩。

「大丈夫だからな」っていう声が聞こえてくるようだった。


     * * *


「おいしい……」


 音楽室に戻って、雪平先輩が入れてくれた紅茶を飲んで、一息つくわたし。


「もう落ち着きましたか?」


 向かいのソファに座っている九条先輩がほほ笑む。


「はい、もう大丈夫です。すみません……」

「ま~た、すみません?」


 例によって九条先輩の隣に座った宝来先輩が、皮肉っぽく鼻を鳴らす。