「はい。部室に大きな柱時計があったじゃないですか? それに紋章が彫られていて……」

「紋章……?」


 雪平先輩の眉間にしわが寄る。


「ええ、二頭のツノジカが向かい合ってるデザインのものです。えっと、このハンカチにも同じ紋章が……」


 わたしは、スカートのポケットからミレーヌのハンカチを取り出した。

 広げて、紋章を雪平先輩に見せる。

 雪平先輩は目をこらして紋章を見つめると、
「お前……このハンカチをどこで……?」
 と、鋭い顔つきでわたしにたずねた。


「えっと……とあるお嬢さまに親切にしてもらった、って言ったじゃないですか? その人に借りたままになってるんです」

「名前はわかるか?」


 わたしは一瞬迷ったけれど、雪平先輩の圧に押されて、口にしてしまった。


「…………ミレーヌ……です」


 答えたと同時に、雪平先輩は、わたしの手を握った。


「ちょっと来いよ!」

「えっ? ちょ、ちょっと、雪平先輩!?」


 とまどうわたしに構うことなく、ぐいっとわたしを引っぱり、ずんずん歩いていく雪平先輩。

 大きくて、骨ばっている手が、わたしの手を包みこんでいる。

 強引だけど、守られているような感覚もあって、ふりほどく気にはなれない。

 理央くんに続いて、今度は雪平先輩に手を引かれるなんて、一体、どうなってるの――――――っ!?